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平穏の章

面白いと思う理由

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「いやはや、『面白いと思う理由を述べよ』とか、完全に、『私のどこが好き?』とか訊いてくる<面倒臭い彼女と>と同じ考え方だよな」

「ああ、それ分かります。ホントにそれですね。面白いとか好きとか、その理由は人それぞれなのに、いちいち理由を説明させようっていうその考えが傲慢だと思います」

「まったくだ。しかもそうやって理由を問い質そうとする意図が、最初から相手を否定してバカにしてやろうという魂胆によるものだと見え見えなんだ。理由を説明できなければ、『理由も説明できないのかよwwww』と貶すことを目的にしてる。

『何となく面白いと思うから面白い』というふんわりした理由の何が悪い? 他人の<面白いと思う理由>や<好きな理由>を評定できるほどご立派な人間なのか? 何様だ?」

「何度も言いますけど、それ、ネットとかには発信しないでくださいね。私の前だけでならいいですけど」

「ああ、分かってる。<チラシの裏>というやつだ」

苦笑いしながら、アオはミハエルが入れてくれたコーヒーを一口含み、「ふう…」と一呼吸入れた。その上でまた口を開く。

「…今期のあれの出来が前作に比べて劣るかもしれないという印象は、確かに私も抱いているのだ。だが、それでも私は、今期のあれを貶す気にはなれない。

それは、私自身が創作者だからというのもある。他人が作ったものを見るのと、自身が実際に作るのとでは違うのだ。

しかも私は、自分に<才能>などというものがあるとは思っていない。私はただ、自分が描きたいと思ったものをただ描きたいように書き殴って、その中から<商品>になりそうなものをお前に選んでもらってるだけだ。

そんな私が他人の<作品>にケチをつけるなど、おこがましいにも程がある。せっかく提供してくれているものについては楽しみたいだけなのだ。

それでも、私にとってはどうしても合わない作品もある。そういう時にはもうとにかく見ない。無理して見ても精神衛生上よくないしな。

どうしてそれができないのか、私には理解できん。

まあ、私は昔からどうもマイノリティ体質だったらしいんだが。

なにしろ、私は、周りの同好の士が<プ〇キュア>にハマっていた頃、<仮面ラ〇ダー>にハマっていたのだ。

その中でも特に好きだったのは<響〇>でな。

周りの女の子でも<仮面ラ〇ダー>好きはいたが、誰も<響〇>には見向きもしなかった。それどころかメインターゲットである男の子らにも評判が悪かったようだ。

でもそれはまだ良かったのだ。私がショックだったのは、当時大学生だった同好の士が、

『あんなのは<仮面ラ〇ダー>じゃない!』

って言い放ったことだった……」

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