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ナイトストーカーの章

そんなことより

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「近頃、フィクションのキャラクター相手に<イキリ>だなどと称してる輩がいるらしいが、絶対にやり返してこない架空のキャラクター相手にそんなことをぬかす貴様こそが<イキリ>だろうが! 笑わせるでないわ!

フィクションのキャラクターがどれほど『イキった』振る舞いをしていようともそれは所詮、そういう風にキャラ作りされた架空の存在でしかないのだ。

それを<イキリ>だなどと、現実とフィクションの区別もつけられんのか、このウツケが!」

いつものように拳を握り締めそう吠えるアオに、さくらは原稿のチェックをしながら、

「はいはい、そうですね」

とさらりと受け流していた。しかしすぐに、原稿をテーブルの上に置きつつ、

「そんなことより、例のストーカーの件はどうなったんですか?」

少し心配そうな表情で問い掛ける。

「あ…、ああ」

さくらのその言葉に急速に冷まされてバツが悪そうに姿勢を改めながらアオが話し始めた。

「とりあえずその時は巻けたのだ。しばらく行ったところでミハエルが気配を消したことでな。

ただ、どうも家が近所らしく、その後も何度かコンビニで姿を見かけて、女性がいなくなってからコンビニに入るということを続けてる状態だ」

「困りましたね。会社の弁護士に相談してみましょうか? って、ミハエル君は形の上ではエンディミオンと同じで不法滞在ってことになるんですね。だとしたら相談もできないか…」

「そもそもミハエルもエンディミオンも厳密には人間じゃないから人間の法律なんて関係ないが、体裁上はそういうことだな。一応、対策としては<魅了チャーム>の力を使って認識を書き換えるっていう方法もなくはないものの、ストーカーするほど強い執着があると上手くいかないことが多いらしい。

しかも不思議なことに、憎しみの場合は割と上手くいくことが多いのに比べて、好意の場合はってことなんだそうだ」

「へえ、なんか逆のようにも思えますけど」

「うん。ミハエルが言うには、憎しみの場合は本人にとっても好ましい感情じゃないから無意識のうちにそれから逃れたいっていう気持ちもあってって感じなのに対して、好意はそれこそ本人が望んでることだから、より心理的に定着しやすいってことなんじゃないかって話だな」

「なるほど。そういう風に言われるとなんとなく『そうかな』って思えますね」

「いずれにせよ、しばらくは様子を見ることになりそうだ。

ミハエルと一緒にいるところを見られてるから、ミハエルを尾行できないとなると私をターゲットにする可能性もあって、迂闊に出掛けられん。私は気配を消したりできないからな」

「そっか。それもそうですね」

「もっとも、その点についてはどうせ散歩以外では滅多に外出しなかったから別に構わんけどな」



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