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邂逅の章

逆効果

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「ミハエルは、あのバンパイアハンターが自分を狙ってることをどう思ってるの?」

一緒に風呂に入った時、アオはミハエル改めてそう訊いた。

湯船の中でアオと向かい合ったミハエルが静かに答える。

「……彼が僕を狙うのは、ある意味は必然だと思う。彼にはそれだけの背景があるから。それをやめさせようとしても、聞けない理由が彼にはある。だから辞めさせようとするのは現実的じゃないんじゃないかな。

ただ、彼自身に僕を狙う理由がなくなったら、話は変わるかもしれない」

「狙う理由…なくすことはできる?」

「どうだろう…それも正直言って分からない。

少なくとも僕には彼と敵対する理由がない。彼がもし、アオを傷付けようとしてたら僕は戦ったと思う。

アオを守るというのは、僕にとっては戦う理由になる。

だけど彼はアオを狙わなかったし、傷付けようという意図も感じなかった。だから僕は彼とは戦わない。

最初に彼と向かい合った時には、お互いの力量を測るために牽制し合ったりもしたけど、その時にはもう、僕が彼と積極的に戦うつもりがないことは伝わってる。

敵意っていうのはね、相手に向けると鏡のように反射するものなんだ。

もちろん、こちらが敵意を向けなくても相手が一方的に向けてくることもある。けれど、敵意を向ければそれはほとんどの場合、返ってくるんだ。

そうやってお互いに敵意を向けそれを反射し続けることでやがて引くに引けなくなってしまう。

それを回避するには、敵意を向けないようにするしかない。

敵意を向けられても、それを返さないようにするしかないんだよ。

そして僕は彼に返さなかった。

あの時、彼が戸惑ってたのは分かってた。彼が激しく敵意を向けても僕がまったく返さなかったから、彼もどうしていいのか分からなくなったんだと思う。

それでも、きっと以前の彼なら容赦なく攻撃を仕掛けてきただろうな。

さくらという女性と知り合う以前の彼なら。

だけど彼は出逢ってしまったんだ。彼女に。

そのことがもしかしたら、彼の僕を狙う理由を揺るがしてくれるかもしれない。

彼は今、惑ってるんだ。自分の戦う理由を見失いかけて」

「それじゃあ、今が説得するチャンスってこと?」

「……<説得>というのとは違うかな。そういうことをするのは、むしろ逆効果かもしれない。彼に、僕を狙う理由を再認識させる結果になる可能性が高いかも」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「どうもしないよ」

「どうもしない?」

「うん。余計なことはしないのが吉だと僕は感じてる。彼が自分で、僕を狙う理由がなくなったと結論を出すのを待つのが一番かもしれない」

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