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邂逅の章
悔いのないように
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「まあまあ、あんまり怒ったって何にも得にはならないよ」
すっかりエンディミオンの扱いに慣れたさくらが、ニッコリと微笑みながら彼をなだめる。
『たぶん、クリスマスに浮かれていることに腹を立ててるとかじゃないんだろうな……』
と気付きつつ。
さくらは、極力、彼の自尊心に障らないように気遣いつつ、しかし自分の意見も言うように努めていた。<気難しい作家先生>であるアオとずっと付き合ってきた経験が活かされている形と言えるだろうか。
「私達はね、誰か特定の相手を祝うためにクリスマスを祝ってるんじゃないんだよ。こうやって楽しい時間を共有することで、こうやってはしゃげるこの幸せな世界を壊しちゃいけないと確認しようとしてるんだと私は思ってる。
確かに世界にはこういう風に呑気に楽しんでいられない国とかもあるんだと思う。そういうところの人達のことを思うと不謹慎なのかなって思うこともあるよ。
だけどさ。日本は、大きな災害が結構頻繁に起こる国でもあるんだ。台風とか地震とか。そういうのが来ると、昨日まで一緒にバカ騒ぎしてた人が突然いなくなっちゃうことだってある。日本は確かに戦争はしてないかもしれないけど、だからってただただ安穏としてられる国ってわけでもないんだ。
でも、みんなこうして、楽しめる時には楽しむ。悔いのないようにね……」
さくらの言ったことは、ただの一般論かもしれない。誰しもがそこまで難しく考えてないかもしれない。しかしそういう風に考えることだってできてしまうのもまぎれもない事実なのだ。
「…ふん……!」
不機嫌そうに鼻を鳴らし、エンディミオンは視線を逸らした。
さくらを相手に弁舌をぶっても無駄だということを、彼の方も察してきていたのだ。
平和な国に暮らしていても、生と死は常につきまとう。生きることの苦しさも、死の無情さも、現代日本であっても学び取ることは可能なのだ。その現実から目を背けない限りは。
これを気付かない人間は、ただ目を逸らして見ないふりをしているだけであろう。どうあってもいずれ人は死ぬのだという現実を。
さくらは、図らずもその事実に気付いてしまった。いくつもの災害を見てきて、事故で自身の弟が呆気なく死んで、家庭が崩壊してしまうという現実に触れてきたことで。
そう。彼女は決して<平和ボケ>などしていない。人として生きることと、いずれ来る死ときちんと向き合い、そして己の生をいかにして全うするかという哲学をしっかりと確立している。
エンディミオンは、その事実を認めているのだ。
しかし同時に、自分よりずっと年下の小娘をそういう形で認めているという事実が釈然としなくて、不機嫌になってしまうというのもあるのだった。
すっかりエンディミオンの扱いに慣れたさくらが、ニッコリと微笑みながら彼をなだめる。
『たぶん、クリスマスに浮かれていることに腹を立ててるとかじゃないんだろうな……』
と気付きつつ。
さくらは、極力、彼の自尊心に障らないように気遣いつつ、しかし自分の意見も言うように努めていた。<気難しい作家先生>であるアオとずっと付き合ってきた経験が活かされている形と言えるだろうか。
「私達はね、誰か特定の相手を祝うためにクリスマスを祝ってるんじゃないんだよ。こうやって楽しい時間を共有することで、こうやってはしゃげるこの幸せな世界を壊しちゃいけないと確認しようとしてるんだと私は思ってる。
確かに世界にはこういう風に呑気に楽しんでいられない国とかもあるんだと思う。そういうところの人達のことを思うと不謹慎なのかなって思うこともあるよ。
だけどさ。日本は、大きな災害が結構頻繁に起こる国でもあるんだ。台風とか地震とか。そういうのが来ると、昨日まで一緒にバカ騒ぎしてた人が突然いなくなっちゃうことだってある。日本は確かに戦争はしてないかもしれないけど、だからってただただ安穏としてられる国ってわけでもないんだ。
でも、みんなこうして、楽しめる時には楽しむ。悔いのないようにね……」
さくらの言ったことは、ただの一般論かもしれない。誰しもがそこまで難しく考えてないかもしれない。しかしそういう風に考えることだってできてしまうのもまぎれもない事実なのだ。
「…ふん……!」
不機嫌そうに鼻を鳴らし、エンディミオンは視線を逸らした。
さくらを相手に弁舌をぶっても無駄だということを、彼の方も察してきていたのだ。
平和な国に暮らしていても、生と死は常につきまとう。生きることの苦しさも、死の無情さも、現代日本であっても学び取ることは可能なのだ。その現実から目を背けない限りは。
これを気付かない人間は、ただ目を逸らして見ないふりをしているだけであろう。どうあってもいずれ人は死ぬのだという現実を。
さくらは、図らずもその事実に気付いてしまった。いくつもの災害を見てきて、事故で自身の弟が呆気なく死んで、家庭が崩壊してしまうという現実に触れてきたことで。
そう。彼女は決して<平和ボケ>などしていない。人として生きることと、いずれ来る死ときちんと向き合い、そして己の生をいかにして全うするかという哲学をしっかりと確立している。
エンディミオンは、その事実を認めているのだ。
しかし同時に、自分よりずっと年下の小娘をそういう形で認めているという事実が釈然としなくて、不機嫌になってしまうというのもあるのだった。
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