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エンディミオンの章
対等
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エンディミオンの存在に慣れてきたさくらは、かなり精神的な余裕を取り戻しつつあった。それもあって、彼を相手に必要以上に謙った態度も取らずに済むようになったようだ。
帰宅途中、終電間際の電車で酔っぱらいが彼女に絡んできて、それをエンディミオンが撃退しようとした時も、
「傷付けないでください」
と、はっきり命じることができた。
「……」
さくらの言葉に、エンディミオンは渋々ながら従い、足を払って転倒させるだけに留めておいた。しかも、頭を打ちそうになったのを、サッカーボールをリフティングするかのように足で受け止めて。
『信頼を得る』と言った以上は、彼女の命令には基本的に従うつもりのようだ。
それでも不満そうにしている彼に対して、
「ありがとうございます」
と、さくらは気遣った。
しかしその態度は、ただ彼を恐れて下手に出ているだけのものではないのが伝わる、堂々としたものだっただろう。
『…こいつ……』
そんなさくらに、エンディミオンはただならぬものを感じていた。
気高さとでも言えばいいのか。
『なんでこんな、平和ボケした国の小娘が……』
などと思いながらも、不思議と反発しようという気は起らなかった。大人しく従ってもいいという気分にさせられる。
そしてそのまま一緒に彼女の自宅に帰る。
「お疲れ様でした」
帰ってからもそう労われて、エンディミオンは悪い気はしなかった。
確かに日本は、ここ数十年、大きな戦争に巻き込まれはしなかっただろう。平和ボケしていると傍目には見えるくらいに呑気にも思えるかもしれない。しかし、<気概>というものは、戦争や戦闘状態にある時ばかりに磨かれるものではない。大事なのは心掛けなのではないだろうか。
さくらは、暴力的な雰囲気には弱い。それは偽らざる事実である。けれど、そんな彼女でも厄介な相手と真っ向から渡り合い、自らの仕事をこなすという生き方はしてきたのだ。決してただただ憶病なだけではない。
彼が自分に対しては暴力を振るわない、振るわないと彼自身が自らに誓っているのが実感できるにしたがって、心理的には対等な立場に、いや、むしろ彼を護衛役として従えている程の立場になっているのが実感できてきたことが余裕を生んだのだった。
さりとて、自身の立場を笠に着て横柄に振る舞ったりはしない。鷹揚でありながら尊大ではない。そういう姿勢が自然と身に付いているのだと思われる。
これは彼女が、仕事の上で、相手と対等でありつつ自身の意見はしっかりと伝え、かつ敬うことも忘れないという心掛けがもたらしたものだと言えるのかもしれない。
帰宅途中、終電間際の電車で酔っぱらいが彼女に絡んできて、それをエンディミオンが撃退しようとした時も、
「傷付けないでください」
と、はっきり命じることができた。
「……」
さくらの言葉に、エンディミオンは渋々ながら従い、足を払って転倒させるだけに留めておいた。しかも、頭を打ちそうになったのを、サッカーボールをリフティングするかのように足で受け止めて。
『信頼を得る』と言った以上は、彼女の命令には基本的に従うつもりのようだ。
それでも不満そうにしている彼に対して、
「ありがとうございます」
と、さくらは気遣った。
しかしその態度は、ただ彼を恐れて下手に出ているだけのものではないのが伝わる、堂々としたものだっただろう。
『…こいつ……』
そんなさくらに、エンディミオンはただならぬものを感じていた。
気高さとでも言えばいいのか。
『なんでこんな、平和ボケした国の小娘が……』
などと思いながらも、不思議と反発しようという気は起らなかった。大人しく従ってもいいという気分にさせられる。
そしてそのまま一緒に彼女の自宅に帰る。
「お疲れ様でした」
帰ってからもそう労われて、エンディミオンは悪い気はしなかった。
確かに日本は、ここ数十年、大きな戦争に巻き込まれはしなかっただろう。平和ボケしていると傍目には見えるくらいに呑気にも思えるかもしれない。しかし、<気概>というものは、戦争や戦闘状態にある時ばかりに磨かれるものではない。大事なのは心掛けなのではないだろうか。
さくらは、暴力的な雰囲気には弱い。それは偽らざる事実である。けれど、そんな彼女でも厄介な相手と真っ向から渡り合い、自らの仕事をこなすという生き方はしてきたのだ。決してただただ憶病なだけではない。
彼が自分に対しては暴力を振るわない、振るわないと彼自身が自らに誓っているのが実感できるにしたがって、心理的には対等な立場に、いや、むしろ彼を護衛役として従えている程の立場になっているのが実感できてきたことが余裕を生んだのだった。
さりとて、自身の立場を笠に着て横柄に振る舞ったりはしない。鷹揚でありながら尊大ではない。そういう姿勢が自然と身に付いているのだと思われる。
これは彼女が、仕事の上で、相手と対等でありつつ自身の意見はしっかりと伝え、かつ敬うことも忘れないという心掛けがもたらしたものだと言えるのかもしれない。
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