46 / 291
エンディミオンの章
感触
しおりを挟む
電車の中も、やはりラッシュのピーク時に比べればまだマシとは言え、『立錐の余地もない』程度には混雑していた。
しかも、乗り込む時に気配を感じて嫌な予感がしていたのだが、やはりと言うか案の定と言うか、尻の辺りに違和感を覚え、さくらはすごく困ったような表情になっていたのだった。
『やっぱり痴漢かなあ……』
とは思うものの、今の時点では混雑しているせいでただ手が当たっているだけかも知れないので、迂闊な判断はできないと様子を窺うだけに留めている。
どうやら、後ろの男性の手の甲が当たっているようなのだ。
だが、今のところは動いたりする気配もない。
これ自体は割とよくあることだった。敢えて手を動かさず、しかしどけることもなく、ただ彼女の尻の感触を味わっているかのような、痴漢かどうか微妙なラインというものである。
これでまさぐるように動かせば完全に痴漢行為になるものの、単に手が当たってるだけではこの混雑を考えるとやむを得ない面もあるのだろう。
しかし、エンディミオンにはどうもそれが納得できないようだ。
『嫌ならはっきり言ってやればいいだろうに…』
さくらが、男の手が当たっていることを不快に感じているのは察せられていた。にも拘らず何も言おうとしないのが理解できない。
だから、
「おいお前、そんなに女の尻が好きか?」
と声を上げた。
実はこの時、頭からすっぽりと真っ黒なマントを被っているという異様な風体については気にされないように気配を消していたものの、それでも『そこに子供がいる』程度のことは認識できるように加減してたのだ。でないと、彼がいる部分にだけ隙間が空いてるかのように周囲の人間には感じられてしまう為、逆に強い違和感を覚えさせてしまう可能性があるからである。
その所為もあり、彼の声ははっきりと周囲の人間に認識された。
『痴漢?』
『痴漢か?』
という空気がその場に広がっていく。それに呼応するかのように、さくらの尻に当たっていた手の感触が消え失せた。
だがそれでも、手を当てていた男はまるで素知らぬふりをする。それどころか男自身も、痴漢行為をしている者を探すかのように周囲を窺う仕草を見せる始末だ。
こういう時に狼狽えたりするとかえって怪しまれることをよく承知しているのだろう。もしかすると筋金入りの常習犯かもしれなかった。
とは言え、不快な手の感触がなくなっただけでもさくらはホッとしていた。
『ありがとう』
声には出さなかったものの、エンディミオンの方に視線を向けて、目で感謝の意を示す。
けれど、そんな彼女の控えめな態度が彼を余計にイラつかせたのだった。
『オレに感謝などする前に、この男の腕の一本でも捩じりあげてやれ…! どこまでお人好しなんだこいつは……!』
しかも、乗り込む時に気配を感じて嫌な予感がしていたのだが、やはりと言うか案の定と言うか、尻の辺りに違和感を覚え、さくらはすごく困ったような表情になっていたのだった。
『やっぱり痴漢かなあ……』
とは思うものの、今の時点では混雑しているせいでただ手が当たっているだけかも知れないので、迂闊な判断はできないと様子を窺うだけに留めている。
どうやら、後ろの男性の手の甲が当たっているようなのだ。
だが、今のところは動いたりする気配もない。
これ自体は割とよくあることだった。敢えて手を動かさず、しかしどけることもなく、ただ彼女の尻の感触を味わっているかのような、痴漢かどうか微妙なラインというものである。
これでまさぐるように動かせば完全に痴漢行為になるものの、単に手が当たってるだけではこの混雑を考えるとやむを得ない面もあるのだろう。
しかし、エンディミオンにはどうもそれが納得できないようだ。
『嫌ならはっきり言ってやればいいだろうに…』
さくらが、男の手が当たっていることを不快に感じているのは察せられていた。にも拘らず何も言おうとしないのが理解できない。
だから、
「おいお前、そんなに女の尻が好きか?」
と声を上げた。
実はこの時、頭からすっぽりと真っ黒なマントを被っているという異様な風体については気にされないように気配を消していたものの、それでも『そこに子供がいる』程度のことは認識できるように加減してたのだ。でないと、彼がいる部分にだけ隙間が空いてるかのように周囲の人間には感じられてしまう為、逆に強い違和感を覚えさせてしまう可能性があるからである。
その所為もあり、彼の声ははっきりと周囲の人間に認識された。
『痴漢?』
『痴漢か?』
という空気がその場に広がっていく。それに呼応するかのように、さくらの尻に当たっていた手の感触が消え失せた。
だがそれでも、手を当てていた男はまるで素知らぬふりをする。それどころか男自身も、痴漢行為をしている者を探すかのように周囲を窺う仕草を見せる始末だ。
こういう時に狼狽えたりするとかえって怪しまれることをよく承知しているのだろう。もしかすると筋金入りの常習犯かもしれなかった。
とは言え、不快な手の感触がなくなっただけでもさくらはホッとしていた。
『ありがとう』
声には出さなかったものの、エンディミオンの方に視線を向けて、目で感謝の意を示す。
けれど、そんな彼女の控えめな態度が彼を余計にイラつかせたのだった。
『オレに感謝などする前に、この男の腕の一本でも捩じりあげてやれ…! どこまでお人好しなんだこいつは……!』
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
あったか荘は今日もスープ日和
来 根来
キャラ文芸
東京へ夢を叶えるために上京してきた女子大生・右芝 詩瑠(うしば しる)。初めて実家を離れて暮らす場所として選んだのは、都内でありながらのどかな風景にポツンと建つ長屋「あったか荘」。
様々な年齢や職業の人々が集う寄宿舎(シェアハウス)「あったか荘」の入居ルールは
、たったひとつだけ。
それは……毎日朝ごはんにスープを作ってみんなへ振る舞うこと。
姿を見せない大家、月夜にだけ会える謎の美青年、大酒飲みの美女、胡散臭いイケオジなどなど、同居人はみんな優しいけどみんな少し変。
そんな個性的なメンバーを「スープ」であたためてまとめる、グルメなヒューマンドラマ。
『有意義』なお金の使い方!~ある日、高1の僕は突然金持ちになっちゃった!?~
平塚冴子
キャラ文芸
イジメられられっ子、母子家庭、不幸だと思っていた僕は自殺まで考えていた。
なのに、突然被験者に選ばれてしまった。
「いくらでも、好きにお金を使って下さい。
ただし、有意義な使い方を心掛けて下さい。
あなたのお金の使い道を、こちら実験結果としてクライアントに提供させて頂きます。」
華京院 奈落と名乗る青年サポーターが、取り敢えず差し出した1千万円に頭が真っ白くなった…。
有意義なお金の使い方って何だ…?
そして…謎の一族…華京院が次々と現れてくる。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる