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エンディミオンの章
選択肢
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『オレは今からお前の信頼を得ることにする』
その言葉がどこまで信用できるものかどうかは分からない。だが、さくらはこの時、本当に薄氷を踏むような危うさで<正解>を引き当てたのだと言えた。
泣いて命乞いをしても、正論で説得しようとしても、一か八かで歯向かってみても、決死の覚悟で逃げてみても、どれも<ハズレ>だったのだ。
こういう時、『戦うべきだ!』などと勇ましいことをいう者は多いだろう。だがそんなフィクションでよくあるような話はそうそう通じるものではない。たいていは単なる蛮勇で終わるのが現実である。
それらの選択をした時には、この冷酷なバンパイアハンターは彼女の命を奪ってみせていたはずだ。
なのに彼女は生き延びた。
それは、当のエンディミオン自身でさえ用意していなかった正解だった。
彼自身は、それまで言っていたように、吸血鬼のところに案内する以外の選択肢を正解と見做す気はなかったのである。
にも拘らず彼女は、彼の気まぐれを幸運にも引き出してみせたという訳だ。
これは、彼女の努力や機転によって得られた結果ではない。それよりは<彼女自身の人柄>が招いた結果であり、この少年と彼女の組み合わせだからこそのものだと言えるだろう。
人生には往々にしてそういうことも起こる。その偶然の組み合わせによって本来は有り得ない筈の結果がもたらされるということが。
「いやはや、実にいい気分だ。愉快だと言ってもいい。そこで、だ。今回、お前に迷惑を掛けた詫びとして、オレがしばしお前の<護衛>についてやろう」
やはりソファーにふんぞり返ったまま、とても<詫び>とは思えない尊大な態度で少年は言い放った。
「護衛…?」
いきなり『護衛してやる』と言われても、さくらはただの平凡な一般人なので、護衛が必要なことなど殆どなかった。元より危ないところになどは近付かないし、今回、こんなことに巻き込まれたのだって、これまでは何も危険なことなどなかった、普段はそれなりに人通りもある道でのことだった。それで『護衛してやる』など、強盗にボディーガードを頼むようなものとしか思えない。
「え…と……」
どう返事をしていいものか困っていた彼女に、彼は、
「まあ、いきなりそんなことを言われても信用できんだろうな。オレだってそんな戯言など信用しない。だがこれは事実だ。お前が信じる信じないに拘わらずオレはお前を守ってやる。それが俺にできる<詫び>だ」
『……もしかしてこの人って……?』
そこまで彼の言葉を聞いて、さくらはある種の既視感を覚えていた。彼の口ぶりが、どこかで聞いたことのあるようなものの気がしたのだった。
その言葉がどこまで信用できるものかどうかは分からない。だが、さくらはこの時、本当に薄氷を踏むような危うさで<正解>を引き当てたのだと言えた。
泣いて命乞いをしても、正論で説得しようとしても、一か八かで歯向かってみても、決死の覚悟で逃げてみても、どれも<ハズレ>だったのだ。
こういう時、『戦うべきだ!』などと勇ましいことをいう者は多いだろう。だがそんなフィクションでよくあるような話はそうそう通じるものではない。たいていは単なる蛮勇で終わるのが現実である。
それらの選択をした時には、この冷酷なバンパイアハンターは彼女の命を奪ってみせていたはずだ。
なのに彼女は生き延びた。
それは、当のエンディミオン自身でさえ用意していなかった正解だった。
彼自身は、それまで言っていたように、吸血鬼のところに案内する以外の選択肢を正解と見做す気はなかったのである。
にも拘らず彼女は、彼の気まぐれを幸運にも引き出してみせたという訳だ。
これは、彼女の努力や機転によって得られた結果ではない。それよりは<彼女自身の人柄>が招いた結果であり、この少年と彼女の組み合わせだからこそのものだと言えるだろう。
人生には往々にしてそういうことも起こる。その偶然の組み合わせによって本来は有り得ない筈の結果がもたらされるということが。
「いやはや、実にいい気分だ。愉快だと言ってもいい。そこで、だ。今回、お前に迷惑を掛けた詫びとして、オレがしばしお前の<護衛>についてやろう」
やはりソファーにふんぞり返ったまま、とても<詫び>とは思えない尊大な態度で少年は言い放った。
「護衛…?」
いきなり『護衛してやる』と言われても、さくらはただの平凡な一般人なので、護衛が必要なことなど殆どなかった。元より危ないところになどは近付かないし、今回、こんなことに巻き込まれたのだって、これまでは何も危険なことなどなかった、普段はそれなりに人通りもある道でのことだった。それで『護衛してやる』など、強盗にボディーガードを頼むようなものとしか思えない。
「え…と……」
どう返事をしていいものか困っていた彼女に、彼は、
「まあ、いきなりそんなことを言われても信用できんだろうな。オレだってそんな戯言など信用しない。だがこれは事実だ。お前が信じる信じないに拘わらずオレはお前を守ってやる。それが俺にできる<詫び>だ」
『……もしかしてこの人って……?』
そこまで彼の言葉を聞いて、さくらはある種の既視感を覚えていた。彼の口ぶりが、どこかで聞いたことのあるようなものの気がしたのだった。
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