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エンディミオンの章
得体の知れない気配
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『周りにいる人間の誰かが吸血鬼に憑かれた』
そんな突拍子もない言葉が突然頭に沁み込んでくると、さくらの脳裏に何の脈絡もなく思い浮かんだ光景があった。
自分が担当する作家、蒼井霧雨と、その隣に佇む碧眼・プラチナブロンドの美しい少年<ミハエル>の姿だった。
『まさか……?』
彼女の出版社が出しているラノベじゃあるまいし、<吸血鬼>なんて現実にはいる筈がないとは思いつつ、どうしてもそれが思い浮かんでしまう。
有り得ないほどに美しい少年の姿が。
「ふん、心当たりがあるか。なら、そいつのところに案内してもらうぞ」
そう言いながら声の主は、街灯の光が届くところまで歩み出てきた。
そんな何者かの姿がはっきりと見えるようになった瞬間、
「……可愛い…!?」
さくらは咄嗟に声を上げてしまう。
可愛い。そう、<それ>は確かに可愛かった。
半袖のTシャツと半ズボンに身を包み、一見すると少女のようにも見えるが、それでも引き締まっているのが街灯の下でも分かるすらりとした体と、すごくあどけない顔つきが何とも言えない奇妙なバランスで成立している、まるで人形のような少年。
だが、体をモジモジと身悶えさせている妙齢の女性に向かってその少年は、
「可愛いって言うな……!」
と一喝した。
しかしそんな姿も、
「か、可愛い……!」
さくらを一層、身悶えさせる結果しか生まなかった。すると彼女は、
「どうしたの? 僕。こんな時間に」
『吸血鬼云々』の話は完全にどこかに吹っ飛んでしまって、ただただ、
<深夜に街中を徘徊している子供を心配する大人>
になってしまっていた。
それがまた許せないのか、少年は、
「ふざけるな! こう見えてもオレはお前よりずっと年上だぞ!」
と声を上げる。しかしそれでも、さくらは、
「うん、そうなんだ? じゃあ、自分のおうちも分かるよね? お父さんとお母さんが心配してるから早く帰った方がいいんじゃないかな」
などと、
<強がってついついホラを吹いてしまう少年>
が微笑ましくて仕方がないという態度を崩さなかった。
だが、そんな彼女に堪忍袋の緒が切れたのか、少年の目が突然真っ赤に染まり、次の瞬間、姿が消えた。
そう、『消えた』のだ。どこかに跳び退いた様子もなく、本当に突然に。
「―――――え…!?」
そして次の瞬間、さくらは自身の喉元に冷たく固いものの感触を覚えていた。
それが彼女に本能的な危機察知を促す。
「いい加減に黙らないと…殺すぞ……!」
背後から届いてくる、刺すような冷たい声と、得体の知れない気配が、それまでの和やかな気分を一瞬で塗り替えてしまったのだった。
そんな突拍子もない言葉が突然頭に沁み込んでくると、さくらの脳裏に何の脈絡もなく思い浮かんだ光景があった。
自分が担当する作家、蒼井霧雨と、その隣に佇む碧眼・プラチナブロンドの美しい少年<ミハエル>の姿だった。
『まさか……?』
彼女の出版社が出しているラノベじゃあるまいし、<吸血鬼>なんて現実にはいる筈がないとは思いつつ、どうしてもそれが思い浮かんでしまう。
有り得ないほどに美しい少年の姿が。
「ふん、心当たりがあるか。なら、そいつのところに案内してもらうぞ」
そう言いながら声の主は、街灯の光が届くところまで歩み出てきた。
そんな何者かの姿がはっきりと見えるようになった瞬間、
「……可愛い…!?」
さくらは咄嗟に声を上げてしまう。
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半袖のTシャツと半ズボンに身を包み、一見すると少女のようにも見えるが、それでも引き締まっているのが街灯の下でも分かるすらりとした体と、すごくあどけない顔つきが何とも言えない奇妙なバランスで成立している、まるで人形のような少年。
だが、体をモジモジと身悶えさせている妙齢の女性に向かってその少年は、
「可愛いって言うな……!」
と一喝した。
しかしそんな姿も、
「か、可愛い……!」
さくらを一層、身悶えさせる結果しか生まなかった。すると彼女は、
「どうしたの? 僕。こんな時間に」
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になってしまっていた。
それがまた許せないのか、少年は、
「ふざけるな! こう見えてもオレはお前よりずっと年上だぞ!」
と声を上げる。しかしそれでも、さくらは、
「うん、そうなんだ? じゃあ、自分のおうちも分かるよね? お父さんとお母さんが心配してるから早く帰った方がいいんじゃないかな」
などと、
<強がってついついホラを吹いてしまう少年>
が微笑ましくて仕方がないという態度を崩さなかった。
だが、そんな彼女に堪忍袋の緒が切れたのか、少年の目が突然真っ赤に染まり、次の瞬間、姿が消えた。
そう、『消えた』のだ。どこかに跳び退いた様子もなく、本当に突然に。
「―――――え…!?」
そして次の瞬間、さくらは自身の喉元に冷たく固いものの感触を覚えていた。
それが彼女に本能的な危機察知を促す。
「いい加減に黙らないと…殺すぞ……!」
背後から届いてくる、刺すような冷たい声と、得体の知れない気配が、それまでの和やかな気分を一瞬で塗り替えてしまったのだった。
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