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ミハエルの章

残念な一面

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正直、ミハエルを連れて帰ったのは、小説のネタになるかもしれないという下心があったのも事実だった。

それと、自分の手でショタを育成してみたいという願望も。

けれどこうして蓋を開けてみると、むしろアオの方が育成されているようにさえ見えた。

気持ちの切り替えが上手くいかず仕事を蔑ろにしそうになった彼女に、ミハエルが的確なきっかけを与えてくれたのだから。

切りの良いところでひと段落して、

「ふう……」

と一息ついた彼女がハッと気付いてしまった。

『なんか、私の方が宿題を渋ってた子供みたいじゃん…!?』

と。

そして、タイミングよく紅茶を入れてくれた彼に、恐る恐る訊いてみた。

「あの…もしかして私、ミハエルにまんまと乗せられた……?」

そんな彼女にも彼は優しい。

「だって僕のせいでアオの仕事が上手くいかなかったら嫌だから」

柔らかく微笑みながら彼は言った。

『うぉおおぉおおぉぉ~っ! チャームすら使わずに~~~~っっ!?』

アオが驚愕する。

そう。この時、確かにミハエルは魅了の力などは使っていなかった。そんなものは使わず、まさにただ言葉だけでアオの意識を誘導してみせたのである。

もっとも、今回ここまで上手くいったのはたまたまだとも言えるかもしれないが。

だがたとえそうだとしても結果としてこうなったのは事実であり、アオを驚かせるには十分な出来事だった。

「僕達も無駄に長生きしてるわけじゃないっていうことだよ」

クスっといった感じの笑顔でミハエルが返す。

「そっかあ…長く生きて経験を積むというのは、こういうことでもあるんだ……」

感心させられると同時に、アオは気付いてしまった。

「だけど人間は、長く生きて経験を積んでても、それを必ずしも活かせてないよね。歳だけとって、でも子供みたいに我儘なだけってっていう人間も多いもん。そんな言い方したら、そんなことしたら、確実にトラブルになるでしょっていうのをいい歳した大人がやってたりするもんね。

ああ…情けない……」

見た目には子供としか思えないミハエルの巧みさに比べ、人間の浅ましさよ。と、アオは暗澹たる気分になった。

しかし、そんな彼女にもミハエルの笑顔はあたたかかった。

「そんなに卑下することもないよ。人間全員がそうだという訳じゃないはずだから。

確かに僕達吸血鬼は人間の残念な一面をたくさん見てきたけど、だからと言って人間を見限ったり滅ぼそうとしたりしないんだ。

だって人間には、残念な一面と素晴らしい一面とが同時に存在するから。

残酷なことをしたり愚かなことをしたりするのも人間なら、美しいことをやってみせるのも人間だからね」

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