JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

なんとかライダーじゃない

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その頃、今川いまかわも、満身創痍となりながらもその眼にはまだ力が漲っていた。剣筋も衰えていない。

デカブツすら剣気で斬り伏せ、私の影にも決して劣らない戦いを見せた。いやはや、本当に大した奴だ。それどころか、次々と襲い掛かる牙の渦すら、切り裂いていく。

「まったく……俺は刑事だっての。なんとかライダーじゃないんだがね……」

自嘲気味に笑いながらなおも力を練り上げ、放つ。

だがその力も、決して無尽蔵じゃなかった。私達に比べればあまりにも小さく、儚い力だった。斬っても斬っても押し寄せるそれに、刀が耐え切れなくなった。

「く……っ!」

長年使い続けた愛用の刀だったが、その最後を見届け、今川も改めて覚悟を決めた。

「まったく、俺みたいなのによく付き合ってくれたもんだよ。ご苦労さん……が、俺もそろそろヤバそうだ…」

自分のイメージによって作り出した新たな刀を振るい、なおも牙の渦を斬り裂いていく。しかし、直上から落ちてきた特大のそれは、一太刀浴びせることはできたものの、退けることは叶わなかった。

真っ赤な血煙と化し、今川の姿は消えたのだった。



さらにその時、赤島出姫織あかしまできおりも己の魔力を一切の手加減なく開放していた。出し惜しみなどしていては一瞬でやられると分かっていたからだ。剣に魔力を乗せて放ち、牙の渦を押し返す。

「うぉおぉぉおぉおおおぉおぉぉぉーっっ!!」

溢れ出す魔力が雄叫びとなって迸り、ハリハ=ンシュフレフアを貫いた。

いや、本当に大したものだ。今川が一番かと思ったが、お前も決して引けを取らないぞ、赤島出姫織。お前ならあと一万年も修業を積めば、<魔女>ケェシェレヌルゥアにも比肩する魔法使いになれたかもしれん。

もっとも、たとえそうなれたとしても、ハリハ=ンシュフレフアが相手ではどうにもならないがな。

自らを魔力の弾丸と化し、空へと飛び上がる。牙の渦を蹴散らし、青空が広がり、太陽がその体を照らした。

「そうだよ……今日はこんなにいい天気だったんだ……

亜蓮あれんのお見舞いが済んだら、初めてのデートに行くはずだったのにな……」

眩し気に手をかざす赤島出姫織の体を、ハリハ=ンシュフレフア自身が押し潰し、その部分が赤い雲のようになった。



二千を数えた私の影達も次々と食われて残りは数人となり、化生共相手には善戦して見せた人間達も、相手がハリハ=ンシュフレフアとあっては何もできなかった。どのような強力な現代兵器も、奴の前では玩具にすらならない。

だが、食えばいい。そうやってどんどんと食えばいい。今はな。

<木刀を手にしたサラリーマン風の男>とともに戦っていた白小夏パクシャオシャは、自分に襲い掛かってきた渦を鉈で薙ぎ払った時、それまでと少し違う手応えを感じていた。

「…!? なるほど…ようやくか…」

「……」

呟いた白小夏の声に、木刀を手にした男も何かを感じ取ったようであった。

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