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最終章
一方的な虐殺
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私がハリハ=ンシュフレフアと戦い始めた頃、私の影達も空から襲い掛かってくる渦巻きに次々と食われていった。抵抗はするものの、やはり勝負にならない。
人間達や人間に与する化生の力で顕現した連中よりは力が強い為に目立ち、狙われやすかったのだった。
「うわあぁぁあぁぁーっ!!」
喉が裂けるほどの叫び声を上げながら巨大な鎌を振るっていたのは、リーネだった。空間を超越して故郷があった筈の辺りに戻ってみたがさすがに八百年も前ではもはや面影さえロクになく、苛立ちのままに化生共を薙ぎ払っていた。
もう何もない。何もないのだ。クォ=ヨ=ムイとしてはその程度のことは何とも思わないが、八歳の少女の人格の部分では、やはり苦しかったのだろう。
そんなリーネにも渦の牙は襲い掛かった。
「んなろぉっっ!!」
それに対しても鎌を振るったリーネだったが、それは渦の牙によってたやすく噛み砕かれ、次の瞬間、
「っっ!?」
幼い少女の体は血煙となって消えた。
また、アメコミヒーローの格好になったマルガリーテ・ブリエットも、他のアメコミヒーロー達と力を合わせて戦っていた。並の化生共相手ならその力は絶大だった。
「ありがとう!」
「ありがとう!!」
ヒーローらしく圧倒的な力で蹴散らしていき、生き残った人間達の喝采を浴びた。
「……!」
それが心地好く、マスクの下でマルガリーテ・ブリエットは恍惚の表情をしていた。
「な……っ!?」
しかし、空から渦の牙が襲い掛かかってくると、それを迎え撃とうとはしたが、残念ながら無駄な足掻きでしかなかった。牙によって切り裂かれたその体は無数の肉片となって、やはり巻き上げられていく。
「へっ! いくらでもこい!!」
巨大な木槌を振るっていた人足の小平治は、化生に襲われていたところを救った若い女を前にして張り切っていた。もはや外国に等しいほどに日本が変わり果てていても、かつて僅かばかりとは言えど想いを寄せた女の面影を持っていたその女の前では、張り切らずにはいられんかったようだ。
「っが、ぁ……!?」
だがそれも奴が相手では意味を失う。襲い掛かってきた渦に木槌を叩きつけようとした瞬間に、女ごと噛み砕かれた。
「やるな、お前…!」
「あなたこそ……!」
槍を自在に操っていた足軽の佐吉は銃剣を構えた女性自衛官と何故か息が合ったらしく互いに背中を預けて化生共を退けていったが、こちらも渦に襲われた。
「大丈夫。私が守ってあげるから……!」
小刀を構えた小夜は、小学生くらいの少年を庇い戦った。その少年の姿に、自分の弟の姿を重ねていたのだ。その為、戦いなど縁のなかった女だったにも拘わらず化生共を倒していったが、牙を生やした渦が現れると、小平治や佐吉と同じように、なすすべなく食われていった。
「……」
一方、リーネと同じく空間を超越して故郷のドイツへと戻っていたエイドリアン・メルケルはドイツ軍と共闘していた。
「なんだ、あいつ……っ!?」
「すげぇ……!」
突然現れた古めかしい軍服を着た男には苦い笑みを浮かべた現代の軍人達だったが、第一次大戦当時の古い銃をありえない速度で連射して化生共を打ち倒す姿には驚嘆し、共に戦うことにしたのだった。
そんな現代ドイツ軍と協力し戦っていたものの、こちらも牙の渦に襲われ、プラズマを放つ銃で善戦したがあえなくバラバラに食いちぎられて死んだ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……っ!」
もはや故郷など影も形もないことを悟っていたブリギッテ・シェーンベルクは私からそう離れていないところで呪いの言葉を吐き続けていたが、
「え……?」
瓦礫の下で奇跡的に生き延びていた赤ん坊を見付けると、それまでの狂気に満ちた陰鬱な表情が一変、母の顔に戻っていた。
しかしそれでは十分に力も振るえず、渦が迫ってくるのに気付き、
「消えろ……っ!!」
呪いの言葉を浴びせたが、奴には届かなかった。赤ん坊と共に頭から齧られ人の形を失っていく。
「キャハハハハハハッハハハハハハハッッ!!」
狂気の笑い声を上げつつ楽しそうにデカいナイフと裁ちばさみを振り回していたコンスタンティア・エリントンは、恐らく私の影の中では最も多くの化生を葬り去っただろう。それが楽しくて仕方ないらしい。
だから渦の攻撃を受けても自在に躱し、逆に渦の触手をズタズタに切り裂いていった。
その姿は一見、よくやっているようにも見えたに違いない。しかしそんなものは一時しのぎに過ぎなかった。
「キャ…ッ、ギャ、ヒ……ッッ!?」
どれほど狂気に溢れていようとも、いくつもの渦に同時に襲い掛かられては抗い切れなかった。頭と手足をそれぞれ別に食われて果てる。
「うわぁああぁあぁぁぁっ!!」
藤波沙代里も、化生を相手にはプロレス技を活かし活躍したが、プロレス技を使いようがなかった渦が相手ではどうすることもできず、腕を食われ、脚を食われ、それでも噛み付こうとしたが、最後には腹を食い破られて絶命した。
「くそっ! せめてこの子だけでも……っ!!」
市野正一は、自分の家があった近所で、たまたまガレージに隠れていた通りすがりの子供を見付けてしまい、放っておくことができずに庇おうとした。
だがやはりその状態では戦いづらく苦しい戦いを強いられていたところにさらに渦が襲い掛かり、何とか抗おうとしたが結局はその子供ごとやはり噛み砕かれた。
完全に一方的な虐殺だった。
多少は抗ったように見えた者も、実際にはたまたまそう見えただけに過ぎなかった。
もっとも、それは当然の結果でしかない。力の差がありすぎるのだ。人間の赤ん坊がグリズリーに戦いを挑むよりも、オキアミがクジラに戦いを挑むよりも、遥かに無謀なことだったのだからな。
人間達や人間に与する化生の力で顕現した連中よりは力が強い為に目立ち、狙われやすかったのだった。
「うわあぁぁあぁぁーっ!!」
喉が裂けるほどの叫び声を上げながら巨大な鎌を振るっていたのは、リーネだった。空間を超越して故郷があった筈の辺りに戻ってみたがさすがに八百年も前ではもはや面影さえロクになく、苛立ちのままに化生共を薙ぎ払っていた。
もう何もない。何もないのだ。クォ=ヨ=ムイとしてはその程度のことは何とも思わないが、八歳の少女の人格の部分では、やはり苦しかったのだろう。
そんなリーネにも渦の牙は襲い掛かった。
「んなろぉっっ!!」
それに対しても鎌を振るったリーネだったが、それは渦の牙によってたやすく噛み砕かれ、次の瞬間、
「っっ!?」
幼い少女の体は血煙となって消えた。
また、アメコミヒーローの格好になったマルガリーテ・ブリエットも、他のアメコミヒーロー達と力を合わせて戦っていた。並の化生共相手ならその力は絶大だった。
「ありがとう!」
「ありがとう!!」
ヒーローらしく圧倒的な力で蹴散らしていき、生き残った人間達の喝采を浴びた。
「……!」
それが心地好く、マスクの下でマルガリーテ・ブリエットは恍惚の表情をしていた。
「な……っ!?」
しかし、空から渦の牙が襲い掛かかってくると、それを迎え撃とうとはしたが、残念ながら無駄な足掻きでしかなかった。牙によって切り裂かれたその体は無数の肉片となって、やはり巻き上げられていく。
「へっ! いくらでもこい!!」
巨大な木槌を振るっていた人足の小平治は、化生に襲われていたところを救った若い女を前にして張り切っていた。もはや外国に等しいほどに日本が変わり果てていても、かつて僅かばかりとは言えど想いを寄せた女の面影を持っていたその女の前では、張り切らずにはいられんかったようだ。
「っが、ぁ……!?」
だがそれも奴が相手では意味を失う。襲い掛かってきた渦に木槌を叩きつけようとした瞬間に、女ごと噛み砕かれた。
「やるな、お前…!」
「あなたこそ……!」
槍を自在に操っていた足軽の佐吉は銃剣を構えた女性自衛官と何故か息が合ったらしく互いに背中を預けて化生共を退けていったが、こちらも渦に襲われた。
「大丈夫。私が守ってあげるから……!」
小刀を構えた小夜は、小学生くらいの少年を庇い戦った。その少年の姿に、自分の弟の姿を重ねていたのだ。その為、戦いなど縁のなかった女だったにも拘わらず化生共を倒していったが、牙を生やした渦が現れると、小平治や佐吉と同じように、なすすべなく食われていった。
「……」
一方、リーネと同じく空間を超越して故郷のドイツへと戻っていたエイドリアン・メルケルはドイツ軍と共闘していた。
「なんだ、あいつ……っ!?」
「すげぇ……!」
突然現れた古めかしい軍服を着た男には苦い笑みを浮かべた現代の軍人達だったが、第一次大戦当時の古い銃をありえない速度で連射して化生共を打ち倒す姿には驚嘆し、共に戦うことにしたのだった。
そんな現代ドイツ軍と協力し戦っていたものの、こちらも牙の渦に襲われ、プラズマを放つ銃で善戦したがあえなくバラバラに食いちぎられて死んだ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……っ!」
もはや故郷など影も形もないことを悟っていたブリギッテ・シェーンベルクは私からそう離れていないところで呪いの言葉を吐き続けていたが、
「え……?」
瓦礫の下で奇跡的に生き延びていた赤ん坊を見付けると、それまでの狂気に満ちた陰鬱な表情が一変、母の顔に戻っていた。
しかしそれでは十分に力も振るえず、渦が迫ってくるのに気付き、
「消えろ……っ!!」
呪いの言葉を浴びせたが、奴には届かなかった。赤ん坊と共に頭から齧られ人の形を失っていく。
「キャハハハハハハッハハハハハハハッッ!!」
狂気の笑い声を上げつつ楽しそうにデカいナイフと裁ちばさみを振り回していたコンスタンティア・エリントンは、恐らく私の影の中では最も多くの化生を葬り去っただろう。それが楽しくて仕方ないらしい。
だから渦の攻撃を受けても自在に躱し、逆に渦の触手をズタズタに切り裂いていった。
その姿は一見、よくやっているようにも見えたに違いない。しかしそんなものは一時しのぎに過ぎなかった。
「キャ…ッ、ギャ、ヒ……ッッ!?」
どれほど狂気に溢れていようとも、いくつもの渦に同時に襲い掛かられては抗い切れなかった。頭と手足をそれぞれ別に食われて果てる。
「うわぁああぁあぁぁぁっ!!」
藤波沙代里も、化生を相手にはプロレス技を活かし活躍したが、プロレス技を使いようがなかった渦が相手ではどうすることもできず、腕を食われ、脚を食われ、それでも噛み付こうとしたが、最後には腹を食い破られて絶命した。
「くそっ! せめてこの子だけでも……っ!!」
市野正一は、自分の家があった近所で、たまたまガレージに隠れていた通りすがりの子供を見付けてしまい、放っておくことができずに庇おうとした。
だがやはりその状態では戦いづらく苦しい戦いを強いられていたところにさらに渦が襲い掛かり、何とか抗おうとしたが結局はその子供ごとやはり噛み砕かれた。
完全に一方的な虐殺だった。
多少は抗ったように見えた者も、実際にはたまたまそう見えただけに過ぎなかった。
もっとも、それは当然の結果でしかない。力の差がありすぎるのだ。人間の赤ん坊がグリズリーに戦いを挑むよりも、オキアミがクジラに戦いを挑むよりも、遥かに無謀なことだったのだからな。
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