JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

愉快な光景

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ヴィシャネヒルが侵入したのは、石脇佑香いしわきゆうかのちょっとした悪戯だった。それまで新伊崎家に近付く化生共は電撃で焼き払ってたのだが、山下沙奈がどの程度できるのか、私に対してどれだけ忠誠を立ててるのかを確かめようとしたのである。こんな時に悪趣味な真似をすると人間は思うだろうが、私達はそもそもそういう存在だし、この石脇佑香もすっかり私達の側の存在になっていたのだ。

だがその時、ケラケラと笑っていた石脇佑香の姿が突然、テレビモニターから消えた。それと同時に、地鳴りが響いてきた。この家には影響はないが、これだけ大きく聞こえるということは、外では爆発音に等しい地鳴りだっただろう。さすがに気になって玄関から外を見た山下沙奈の目が見開かれていた。

「学校が…」

山下沙奈が思わず呟いた通りだった。学校に現れた、デカい熊のような猿のような化生に踏み潰されて、校舎が見る影もなく倒壊していたのである。それは、石脇佑香が焼き付けられた鏡のある校舎もだった。所詮は鏡だから、物理的に潰されてはひとたまりもない。

ゴルホウヌェ=ブレブクェであった。ケベロ=スヴラケニヌの分身で、奴に次ぐ強大な化生であり、ハリハ=ンシュフレフアに非常に近い眷属である。

ヴィシャネヒルやブジュヌレンやケネリクラヌェイアレ共は、ここに来る道すがらその辺にいたのを強引に引き連れてきただけだろうが、こいつらは違う。元よりハリハ=ンシュフレフアに従う、いわば幹部クラスとでもいう存在だ。いよいよハリハ=ンシュフレフアのお出ましが近いということだ。

そのゴルホウヌェ=ブレブクェに対して、周囲の電線から電撃が放たれる。いつの間にか、テレビモニターに多数の小さな石脇佑香の姿が映し出されていた。石脇佑香のコピー共だった。

「よくもやってくれたね!」

「許さないぞ!」

コピー共は口々にそう言い、ゴルホウヌェ=ブレブクェに電撃を浴びせていく。とは言え、さすがにこのクラスが相手となれば低周波マッサージ器を当てているようなものでしかなかったが。

無数の電撃を意にも介さず、ゴルホウヌェ=ブレブクェは視界の先にいた、汎用人型決戦兵器の人造人間へと身を躍らせた。

「ヴォオォォオオオォオォォォォオオオォォォーッッ!!」

っと、汎用人型決戦兵器の人造人間も咆哮しそれを迎え撃つ。これはまた愉快な光景だ。

他にもアニメとかのキャラクターを顕現させてる奴は多いようだ。アメリカ辺りだとそれこそアヴェンジャーズよろしくアメコミヒーローが大量に湧いて出ていた。私の影のマルガリーテ・ブリエットもそうだった。

百年ほど前、生まれて初めて見たアニメーションに感動してアニメを作りたいと田舎から出てきたが、強盗に殺されて夢半ばに果てた女だった。それが劇的に発達したアニメーションに当てられて、わざわざその姿を取り入れて一緒に戦っていた。

一方、フランス辺りだと、日本のアニメのキャラクターが多かった。忍術ということになってはいるが実際には明らかに超常の力を振るう忍者の少年や魔法少女は分かるとしても、何故か戦うことには全く不向きそうなのまで顕現している。どうやら自分が好きなキャラクターを実体化させただけのようだ。この期に及んで自分の好み優先か。やれやれ。

イタリアでは、男の子なら誰もが一度は恋すると言われていた、虎縞ビキニを纏い頭に短い角を生やした空飛ぶ少女が電撃で化生共を退けていたりもした。

まったく、人間は昔からそういうのが好きだな。神話なども結局はそうだ。インドではやはりシヴァやヴィシュヌ、ドゥルガー、ハヌマーンなど、神話の存在が主に顕現していた。もちろんこれらは<本物>ではなく、人間達に入れ込んでる連中の力を借りた人間のイメージによって形を得たものである。

まあ、あれだな。今のアニメなどに通ずる、人間の願望と空想の産物だ。元になった存在がいるものもあるが、ほぼ原型は留めていない。

生きる為に必死に戦いながら何を遊んでいるんだか。いや、必死だからこそ、強いイメージによって力を収斂させ、威力となしているということか。

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