JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

涙など流さない

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赤島出姫織あかしまできおりが魔法学校に通っていたことは呪いによって口外することができず、新伊崎千晶にいざきちあきに至っては魔力だけでなく記憶まで失われてしまったことにより、真実は赤島出姫織一人の胸の中に収められた。

このことがどれほど幼い赤島出姫織の精神を蝕んだか、人間には想像もつかんだろう。そのストレスを他人に転嫁しようとして、この後の彼女はイジメ加害者への道を突き進むことになったという訳だ。

なお、魔法学校に通っていた頃も地球の小学校には普通に通っていた。魔法学校への通学はいわば塾に通うようなものであり、魔法を用いた圧縮授業で実質四時間ほどの授業に出ていたが、地球では一時間ほどしか経っていなかった。新伊崎千晶については本人がそれほど乗り気ではなかったこともあって、仮入学扱いで様子を見ていたので、両親は娘が魔法学校に通っていること自体を知らなかったりもした。いつも友達の家に遊びに行って夕食の頃に帰ってくるのを有難がっていただけである。

それでも九歳になる直前から十二歳までの三年の間で、基礎的な魔法については身に着けていた。中等部に進学すれば今度は実戦的な魔法を学ぶことになっていたのだが、その前に辞めてしまったから、攻撃魔法や正式な召喚術については会得できていなかったし、魔法を使った戦闘術も習う前だったのだった。

赤島出姫織が魔法学校を辞めてしまったことで報奨金はカットされ、それを当て込んでいた両親は喧嘩が絶えなくなりやがて別居。ローンで買った邸宅の残債はそれまでの貯えでどうにか完済したものの高額な固定資産税などの支払いと家そのものの維持費などは目途が立たずに結局手放すことにしたのだが、現在まで買い手がつかないまま、固定資産税だけを父親が払っている状態であった。

母親はそんな現実から逃避する為に酒に溺れ、パートの収入の大半を酒とパチンコに費やすという有様であり、これで親子関係が上手くいく筈もなく、母娘の関係は事件が起こる寸前にまで悪化していた時期もあった。

それが、私と一緒に魔法学校を叩き潰して過去にケリをつけ、そのことによって精神的な安定を取り戻した娘の方が母親を受け止める形で、派手な親子喧嘩は鳴りを潜める程度にまでは改善していたのだ。それなのに……

もはや人間の形すら留めていなかったものの服装からそれが母親だと察してしまった赤島出姫織の目に、涙が浮かんでいた。例え母が死んでも涙など流さないだろうと、それどころか『清々した』と喜んでしまいそうだと思っていたのに、実際にはそうではなかった。まだ辛うじて、母親への情は残っていたのだと気付かされてしまった。

「待ってて、必ず元に戻してもらうから…!」

勝手にそんな約束をされても困るのだが、まあ、私が勝てば全て元通りにしてやるから別に構わんがな。

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