JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

もう少し待っててね

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カハ=レルゼルブゥアを介してコルネル=エムクレィシャナシスに放たせた三つの火球が集中し、それは小さな太陽のように周囲を一瞬で焼き尽くした。

さすがに結界では防ぎきれず月城こよみの体が炎に包まれる。

「ぐ…うぅ……っ!」

呻き声を上げながらも耐えて、ケベロ=スヴラケニヌも逃がさぬように結界で捕らえる。奴相手だと本来なら数秒ともたないような脆弱な結界だったが、コルネル=エムクレィシャナシスが放った三つの火球の火力であればそれで十分だった。

攻撃を悟られないよう自らを囮に使った少々無茶なやり方だったとはいえ、悪くない。灼熱化した生徒指導室から黄三縞亜蓮を救い出した時の経験が役に立ったのだろうな。

「オオォォォオォォォオオォォォオォオオォォォーッッ!!」

火球の中で焼き尽くされ、ケベロ=スヴラケニヌはその巨体を身悶えさせながら消えていく。

その際の冷気に中和され、気温は一気に通常へと戻っていった。この時期としてはいささか暑い程度にな。凍り付いていたその辺りも、火球が集中した爆心地はさすがにクレーターのように抉れていたが、それ以外は氷が溶けていたのだった。

「……」

あの母子が凍え死んでいた団地も氷はすっかり消えていたものの、月城こよみは敢えて母子を巻き戻さずにいた。これが完全に終わってからでないとまた巻き込まれて命を落とすことになるのが分かったからだ。

「ごめんなさい…もう少し待っててね」

呟くようにそう声を掛けて、月城こよみは身を翻しその場から飛び去った。私と合流する為である。

「ふふん。少々不様だが、よくやったよ。褒めてやる」

目の前に降り立った途端にそう声を掛けてきた私に対して、

「なんかその言い方嬉しくない…」

と、不満そうな顔をした月城こよみに、私は思わず笑い掛けていた。

「まあそう言うな。私がこういう奴なのはお前もよく知ってるだろう」

「…確かにそうだけどさ……」

月城こよみも苦笑いを浮かべつつ私を見詰める。

ともあれ、ショ=エルミナーレも<狂える母神>レゼヌゥケショネフォオアも撃破したわけで、これで形勢は逆転したぞ、ハリハ=ンシュフレフア。

人間達は実に諦め悪く戦ってくれてるよ。どれほどボロボロになろうともな。

もっとも、ハリハ=ンシュフレフアの力があればそれをまたすぐにひっくりかえすことも造作もない。ショ=エルミナーレと<狂える母神>レゼヌゥケショネフォオアとの決着がついた時のように、ほんのちょっとした弾みで呆気なく事態はどちらにでも転ぶ。私達の戦いはそういうものなのだ。

いずれにせよ、いよいよ山場ではある。

来るがいい。皆で歓迎してやろう!!

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