JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

刑事の気概

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その異常な事態が起こっていたのは、首都圏だけではなかった。日本全土、あらゆる場所で同時多発的に起こっていたのだ。ハリハ=ンシュフレフアの接近に伴って、化生共が津波のように地球にあふれ出たのである。

そう、だからこれは日本だけで起こった事ですらなかった。地球全体で生じていたのだった。

もっとも、人間達も黙ってやられていた訳ではない。強力な軍隊を持つ国は軍を動かし、普段は人知れず化生共の起こす事件などに対処していた様々な能力を持つ人間も、もはや身を隠すことすら考えずに事態の対処に当たった。

日本でも、陰陽師や霊能力者や超能力者と言われる連中が力を振るい、警察も自衛隊も、あらん限りの力で怪物共に抗った。

自衛隊については、先日、陸海空それぞれで奇怪な<未確認飛行物体>との遭遇したという報告がなされていたことが幸いし、迅速な対応ができたらしい。あの時にはどう対処していいのか苦慮していたようだが、続けて今回の事態に至り、さすがにあれがただの<集団幻覚>でなかったことが立証されたということだな。

ただし、警察の方の混乱ぶりは滑稽ですらあっただろう。もっとも、警察の仕事はあくまで<日常の範囲内で起こる事件>の対処だ。このような事態にはそもそも適していない。

とは言え、混乱しながらも懸命に戦ってはいたがな。

その中に、今川いまかわの姿もあった。

たまたま今日は非番で、居合の鍛錬の為に道場に来ていてこの事態に出くわしたのだ。使い慣れた真剣は、魔法使い共の惑星での経験を経た今川にとってただの武器以上の道具となった。ある種の力の使い方に目覚めてしまったことで、剣に己の力を乗せることを会得してしまったのである。それは化生共にとっても大きな脅威となった。

「けぇええぇええぇぇーっっ!!!」

猿叫と呼ばれる気勢を発して剣を振るい、並の人間なら手も足も出ない化生共を圧倒し、今川は道を開いた。

「こっちだ!」

剣道の稽古の為に道場に通っていた子供達三人を連れて、今川は道場の駐車場に止めていた自分の自家用車に乗り込んだ。何の変哲もない地味な国産セダンだが、徒歩よりはマシということだった。

「これで、あいつのところへ行ければ…!」

今川の言う『あいつ』とは、私のことだった。私か月城こよみに合流できれば何とかなると考えたのだろう。まあ、その考え自体は間違ってはいない。少なくとも他の何者よりも頼りにはなる。

「怖かったら目を瞑ってろ!」

今川は子供らにそう声を掛けて、自動車を急発進させたのだった。

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