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最終章
手加減は要らんから
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「ケベロ=スヴラケニヌ…」
ケベロ=スヴラケニヌ。別の宇宙では<イタクァ>とも呼ばれる風属性の超越者だ。私やカハ=レルゼルブゥアよりは格下だが、ただの化生に過ぎないサタニキール=ヴェルナギュアヌェよりは格上の存在で、ハリハ=ンシュフレフアの眷属の中でも別格の力を持つ奴である。あの巨大な体ははったりではない。それに見合った力を有している奴だ。
そいつの周りに、いくつもの黒い円盤状のものが見える。シャノォネリクェを従えているようだな。
と、その時、
「あ…あの辺りって……!」
ケベロ=スヴラケニヌを見ていた月城こよみの顔がみるみる青褪めていく。それと共に突然、髪を翼に変え宙へと舞い上がった。ケベロ=スヴラケニヌの方へと飛ぶ。
『馬鹿め! サタニキール=ヴェルナギュアヌェにも勝てぬお前がどうにかできる相手ではないぞ!!』
と、月城こよみと入れ替わるようにして、私の前に三つの人影が現れた。
「赤島出姫織! 新伊崎千晶!」
そう、赤島出姫織と新伊崎千晶だった。それに加えて私の、<日守こよみとしての影>もいた。異様な気配には気付きつつも無視していたが、さすがに騒動が大きくなって素知らぬふりもしていられなくなり駆け付けたらしい。
「なにこれ? 何が起こってるの?」
険しい表情で問い掛けてくる赤島出姫織に対して、私は命じた。
「ここは任せる。相手は古塩貴生だ! 手加減は要らんから叩きのめせ!」
それだけ言って髪を翼に変え、月城こよみの後を追う。
「古塩くん?」
「……!」
思いがけぬ名を耳にして戸惑いながらも視線を向け、その先に立つ以前とはすっかり印象の変わった古塩貴生に気付き、赤島出姫織と新伊崎千晶は身構えた。
そうしてサタニキール=ヴェルナギュアヌェを任せた私は、月城こよみを追って飛ぶ。もちろんすぐに追いついたが、私に気付いた月城こよみからは強い拒絶が伝わってきた。邪魔をするなと言っているのだ。無論、私がそんなことを聞き入れるはずもないが。
空気中の水分すら凍り付き結晶として風に舞う中、ケベロ=スヴラケニヌまではあと数百メートルしかない団地まで来た時、月城こよみは建物の一つに近付いた。ある部屋のベランダに降りて窓から中を覗き込む。
しかし、その部屋の窓は凍って細かい氷の粒で覆われ中まで見通せなかった。そこで月城こよみは躊躇なくガラスを割り、部屋へと侵入する。巻き戻しもできるし、そもそも緊急事態だからな。
「……っ!?」
だがその顔がみるみる曇るのを私は見た。向けられた視線の先には、赤ん坊を守ろうとするかのように抱いた女が倒れていたのであった。
ケベロ=スヴラケニヌ。別の宇宙では<イタクァ>とも呼ばれる風属性の超越者だ。私やカハ=レルゼルブゥアよりは格下だが、ただの化生に過ぎないサタニキール=ヴェルナギュアヌェよりは格上の存在で、ハリハ=ンシュフレフアの眷属の中でも別格の力を持つ奴である。あの巨大な体ははったりではない。それに見合った力を有している奴だ。
そいつの周りに、いくつもの黒い円盤状のものが見える。シャノォネリクェを従えているようだな。
と、その時、
「あ…あの辺りって……!」
ケベロ=スヴラケニヌを見ていた月城こよみの顔がみるみる青褪めていく。それと共に突然、髪を翼に変え宙へと舞い上がった。ケベロ=スヴラケニヌの方へと飛ぶ。
『馬鹿め! サタニキール=ヴェルナギュアヌェにも勝てぬお前がどうにかできる相手ではないぞ!!』
と、月城こよみと入れ替わるようにして、私の前に三つの人影が現れた。
「赤島出姫織! 新伊崎千晶!」
そう、赤島出姫織と新伊崎千晶だった。それに加えて私の、<日守こよみとしての影>もいた。異様な気配には気付きつつも無視していたが、さすがに騒動が大きくなって素知らぬふりもしていられなくなり駆け付けたらしい。
「なにこれ? 何が起こってるの?」
険しい表情で問い掛けてくる赤島出姫織に対して、私は命じた。
「ここは任せる。相手は古塩貴生だ! 手加減は要らんから叩きのめせ!」
それだけ言って髪を翼に変え、月城こよみの後を追う。
「古塩くん?」
「……!」
思いがけぬ名を耳にして戸惑いながらも視線を向け、その先に立つ以前とはすっかり印象の変わった古塩貴生に気付き、赤島出姫織と新伊崎千晶は身構えた。
そうしてサタニキール=ヴェルナギュアヌェを任せた私は、月城こよみを追って飛ぶ。もちろんすぐに追いついたが、私に気付いた月城こよみからは強い拒絶が伝わってきた。邪魔をするなと言っているのだ。無論、私がそんなことを聞き入れるはずもないが。
空気中の水分すら凍り付き結晶として風に舞う中、ケベロ=スヴラケニヌまではあと数百メートルしかない団地まで来た時、月城こよみは建物の一つに近付いた。ある部屋のベランダに降りて窓から中を覗き込む。
しかし、その部屋の窓は凍って細かい氷の粒で覆われ中まで見通せなかった。そこで月城こよみは躊躇なくガラスを割り、部屋へと侵入する。巻き戻しもできるし、そもそも緊急事態だからな。
「……っ!?」
だがその顔がみるみる曇るのを私は見た。向けられた視線の先には、赤ん坊を守ろうとするかのように抱いた女が倒れていたのであった。
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