JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

負けることは許さん

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『負けることは許さん』

月城こよみにそう声を掛けて、私は病院の建物の中に走り込んだ。その直後、結界が張り巡らされるのが分かった。月城こよみが古塩貴生と共に結界の中に閉じこもったのだ。新たに周囲に被害を出さず奴を始末する為に。

これでしばらくは落ち着くだろう。と言っても人間達は大変だがな。さっそくパトカーや消防車のサイレンが響き渡った。もっとも、被害が大きすぎて何処から手を付けていいのか分からんかも知れんが。

病院の建物の中も酷い有様だった。衝撃波と爆風が走り抜け、即死した人間も多かった。辛うじて生き延びた人間も、目や耳や肺をやられて虫の息だ。

私は産婦人科病棟に急いだ。爆心地からは病棟を一つ挟んだ位置にあったことで建物の破損自体はそれほどでもなかったが、やはりガラスはことごとく割れ、衝撃波で耳などをやられた人間がのたうち回っていた。

それらを敢えて無視し、黄三縞亜蓮きみじまあれんがいる筈の病室のドアを開け、ようとしたが衝撃波のせいか歪んでしまったらしく手を掛けただけでは開かなかった。ええい、鬱陶しい。私はそれを力尽くでこじ開け、中へと入った。

「クォ=ヨ=ムイさん…!」

まず声を発したのは肥土透ひどとおるだった。月城こよみと一緒に来ていたが、黄三縞亜蓮を守る為に残されたのだろう。

で、当の黄三縞亜蓮はと見れば、怯えた顔をしていたが特に怪我もなく無事だった。だがそんな黄三縞亜蓮の傍に、見慣れぬ幼女が寄り添っていた。五歳くらいの、真っ赤な瞳をした少々目つきの悪い幼女だった。全裸だが。

「久しいな、カハ=レルゼルブゥア……こうやって顔を合わすのは十億年ぶりくらいか…?」

私の言葉に、その幼女はさらに鋭い視線を向けてきた。

「二億年前にも会ってる…」

憮然とした態度でボソッと声を漏らしてくる。

「そうだったか? すまん。最近、物忘れがひどくてな」

そう、それは正真正銘、紛れもなくカハ=レルゼルブゥア、黄三縞亜蓮が産んだ赤ん坊であった。赤ん坊の体ではいろいろ都合が悪いので少し成長させたのだろう。

「何があったんですか…?」

黄三縞亜蓮が青褪めた顔で聞いてくる。

「古塩貴生だ。怪物に憑かれた古塩貴生が碧空寺由紀嘉を殺し、お前達も殺そうとしたのだ」

「…そんな……!」

回りくどい言い方をしても意味がないので、単刀直入に言ってやった。その時、

「黄三縞さん! 黄三縞さんご無事ですか!?」

看護師が、私がこじ開けたドアにもたれるようにして声を掛けてきた。頭から血を流してそれをタオルで押さえているが、患者の安否を確認する為に病室を回っていたのだろう。

「僕達は全員無事です。怪我もありません。なので他の患者さんの救助をお願いします」

毅然とした態度ではっきりとそう言った肥土透を見て、その看護師は思わず頬を染めていた。数瞬してハッと我に返り、

「分かりました! それではまた後で避難誘導に来ま―――――…」

と言いかけて、しかし最後まで口にすることができなかった。看護師の姿は、私達が見ている目の前で凄まじい爆風に削り取られるようにして消し飛び、ドアに掛けられていた手だけが残って床に落ちた。

爆風が過ぎ去った後には、廊下だった筈のドアの向こうに瓦礫の山が出来ていたのだった。

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