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最終章
外伝・壱拾陸 JSDF、深淵と対峙する
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海上自衛隊のイージス艦と陸上自衛隊の輸送ヘリが共に<未確認飛行物体>に遭遇していたその時、当然と言うか必然と言うか、航空自衛隊もまた、同じ<未確認飛行物体>に遭遇していた。
「ありゃいったいなんだ!! 教えろ、久利!」
「教えろと言われたって、データにないものは答えられん。言えることは一つ、<未確認飛行物体>、<unidentified flying object>、つまり<UFO>だな」
「UFOって<空飛ぶ円盤>のことじゃないのか!? あれのどこが<空飛ぶ円盤>だ!?」
「お前、ほんとに自衛官か? <未確認飛行物体>なんて、俺達はしょっちゅう遭遇してるじゃないか」
「それは<所属不明機>のことだろ!? あれはどう見たって<怪物>じゃないか!」
「いわゆる<怪物>が現に存在するかどうかの議論はさておいて、確かに時速八百キロ超の速度で飛んでいるF-15をぴったりと追尾できるような航空機には見えないな。どう見ても悪趣味な気球や飛行船の類だ。しかもレーダーにもカメラにも映らないときてる。
西山、そっちでもまだ視認できてるか?」
「ええ、久利二等空佐。しっかりと見えてますよ。こっちのレーダーにもカメラにも映ってませんがね」
「久利二等空佐、田貫原三等空佐であります。記録用のカメラにも写りません。これはまさしく超常現象であります。なんまんだぶなんまんだぶ……!」
「縁起でもないからお経はやめろ! タヌキ!」
「神原二等空佐、自分は<タヌキ>ではありません。田貫原であります。それにお経は縁起悪いものではありません。大変にありがたいものであります」
「だーっ! ごちゃごちゃ五月蝿ぇ!! お前なんざタヌキでいいんだよ! タヌキで!!」
「神原二等空佐、それはパワハラというものであります」
「がーっ! ああ言えばこう言う! 黙れタヌキ!!」
などと、神原二等空佐、久利二等空佐、西山二等空佐、田貫原三等空佐が、訓練飛行中のF-15DJでやり取りをしている間も、その<未確認飛行物体>は二機のF-15DJを追尾していた。
こちらもやはり、報告は上げるもののレーダーにもカメラにも映らないことで地上からは確認できず、しかしこんな子供じみた冗談を言う隊員でもないことから、困惑するしかできないでいた。
だがその時、
陸上自衛隊が目撃したそれと同じように、突然、<未確認飛行物体>が破裂するようにして消えた。その瞬間を、『視力は5.0』と豪語する神原二等空佐は目撃した。
「女だ! 女が突っ込んできて<怪物>を撃破しやがった!!」
「何を馬鹿なことを……西山、そっちからは何か確認できたか?」
「いえ、自分は見逃してしまいました。すいません」
が、西山二等空佐の後席に座っていた田貫原三等空佐が、
「でも、神原二等空佐のおっしゃってることは本当であります。カメラで捉えました。確かに女性に見えます」
言いながら、手にした記録用のデジタル一眼レフカメラを前席の西山二等空佐に渡すと、それを受け取ってモニターを見た西山は、
「本当だ……女性に見える……若い女性です」
呟くように言った西山の視線の先にある、デジタル一眼レフカメラのモニターには、翼を折りたたんで先端を尖らせ、弾丸のような形になった月城こよみの姿が辛うじて捉えられていた。
攻撃に集中するあまり、認識阻害が疎かになったのだろう。それでももちろんここにいる誰も知らない女だから、まあ問題ないがな。
「……」
「……」
「……」
「……」
あまりの事態に、四人は言葉を失う。
そして、たっぷり一分ほど時間が経ってからやっと、
「報告書…どう書けばいいかな……」
久利二等空佐がポツリと呟いたのだった。
「ありゃいったいなんだ!! 教えろ、久利!」
「教えろと言われたって、データにないものは答えられん。言えることは一つ、<未確認飛行物体>、<unidentified flying object>、つまり<UFO>だな」
「UFOって<空飛ぶ円盤>のことじゃないのか!? あれのどこが<空飛ぶ円盤>だ!?」
「お前、ほんとに自衛官か? <未確認飛行物体>なんて、俺達はしょっちゅう遭遇してるじゃないか」
「それは<所属不明機>のことだろ!? あれはどう見たって<怪物>じゃないか!」
「いわゆる<怪物>が現に存在するかどうかの議論はさておいて、確かに時速八百キロ超の速度で飛んでいるF-15をぴったりと追尾できるような航空機には見えないな。どう見ても悪趣味な気球や飛行船の類だ。しかもレーダーにもカメラにも映らないときてる。
西山、そっちでもまだ視認できてるか?」
「ええ、久利二等空佐。しっかりと見えてますよ。こっちのレーダーにもカメラにも映ってませんがね」
「久利二等空佐、田貫原三等空佐であります。記録用のカメラにも写りません。これはまさしく超常現象であります。なんまんだぶなんまんだぶ……!」
「縁起でもないからお経はやめろ! タヌキ!」
「神原二等空佐、自分は<タヌキ>ではありません。田貫原であります。それにお経は縁起悪いものではありません。大変にありがたいものであります」
「だーっ! ごちゃごちゃ五月蝿ぇ!! お前なんざタヌキでいいんだよ! タヌキで!!」
「神原二等空佐、それはパワハラというものであります」
「がーっ! ああ言えばこう言う! 黙れタヌキ!!」
などと、神原二等空佐、久利二等空佐、西山二等空佐、田貫原三等空佐が、訓練飛行中のF-15DJでやり取りをしている間も、その<未確認飛行物体>は二機のF-15DJを追尾していた。
こちらもやはり、報告は上げるもののレーダーにもカメラにも映らないことで地上からは確認できず、しかしこんな子供じみた冗談を言う隊員でもないことから、困惑するしかできないでいた。
だがその時、
陸上自衛隊が目撃したそれと同じように、突然、<未確認飛行物体>が破裂するようにして消えた。その瞬間を、『視力は5.0』と豪語する神原二等空佐は目撃した。
「女だ! 女が突っ込んできて<怪物>を撃破しやがった!!」
「何を馬鹿なことを……西山、そっちからは何か確認できたか?」
「いえ、自分は見逃してしまいました。すいません」
が、西山二等空佐の後席に座っていた田貫原三等空佐が、
「でも、神原二等空佐のおっしゃってることは本当であります。カメラで捉えました。確かに女性に見えます」
言いながら、手にした記録用のデジタル一眼レフカメラを前席の西山二等空佐に渡すと、それを受け取ってモニターを見た西山は、
「本当だ……女性に見える……若い女性です」
呟くように言った西山の視線の先にある、デジタル一眼レフカメラのモニターには、翼を折りたたんで先端を尖らせ、弾丸のような形になった月城こよみの姿が辛うじて捉えられていた。
攻撃に集中するあまり、認識阻害が疎かになったのだろう。それでももちろんここにいる誰も知らない女だから、まあ問題ないがな。
「……」
「……」
「……」
「……」
あまりの事態に、四人は言葉を失う。
そして、たっぷり一分ほど時間が経ってからやっと、
「報告書…どう書けばいいかな……」
久利二等空佐がポツリと呟いたのだった。
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