JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

兵隊のクセに

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結局、一度は助力を断った少女の力を借りる形になったドイツ軍人に対し、リーネは蔑むような視線を向けつつ、

「兵隊のクセに、しっかりしてよ。あなたたち兵隊がしっかりしないせいでわたしは…」

村に駐在していた自国の兵士が敵の侵攻を抑えられず、それが故に村を乗っ取られ、傍若無人に振舞う敵国兵士に父を殺され、母親と共に凌辱の限りを尽くされ殺された少女の恨み節が向けられた。

リーネがいたのは現在のドイツとポーランドの国境辺りだったから、実はドイツとは縁がないこともないんだよな。とは言え、時代が全く違うしエイドリアン・メルケルにはそれこそ何の関係のない話ではあるものの、深い恨みを持った人間にはその辺りの論理的な思考が出来んか。ましてや教育などロクに受けたこともない八歳の子供では。

「……」

理不尽な八つ当たりに苦笑いを浮かべつつドイツ軍人は戦闘に戻り、リーネも次の獲物を求めた。

「!?」

だが、そんな少女の前に現れたのは、ねじくれた巨大な角を持つ牛頭の魔王、ムォゥルォオークフだった。

その姿を見た瞬間、少女の顔が凄まじい憎悪に歪む、なにしろこいつの父親を殺し、母親と自分を凌辱した兵士共を率いてた奴に憑いてたのがムォゥルォオークフだったのだからな。

無論、当時の普通の人間でしかなかった時のリーネにはそんなことは分からん。だがこうして私の感覚に目覚めたことでその事実を知ってしまったのだ。こうなるともう、目の前にいるのが自分達を殺したムォゥルォオークフそのものだったのかどうかなどどうでもよかった。小さな体には収まりきらん激しい憎悪に身を捩りながら、

「あ…あぁ、あぁあぁああぁあああぁぁぁあっっっ!!!」

と言葉にならない呪詛を吐きつつ、リーネはそいつに襲い掛かった。

しかし、特に強力な個体ともなれば<魔王>とも称される奴には、わずか八歳の少女の小さな体ではさすがに不利だった。あらん限りの力で巨大なサイズを振るうが、それらはことごとく弾かれ、奴には届かなかった。それどころか、幼い少女が大好物の奴は完全にリーネに照準を収め、既に股間を隆々とそそり立たせて少女の体を鷲掴みにした。

指に噛み付き振りほどこうとするが敵わず、角のように反り返った一物が幼い体に狙いを定めた。が、それは少女の体を貫くことはできなかった。リーネに気を取られて隙だらけになったムォゥルォオークフを、エイドリアン・メルケルの銃が捉えていたのだ。

プラズマ化した弾丸が股間のものを消滅させ、続けて何発もの銃弾が牛魔の体を蜂の巣にしていく。

自分に加勢してくれた少女の危機を救った形になったエイドリアン・メルケルは、ウインクを一つしただけで声を掛けることさえなかった。気障な奴だ。真面目な軍人ではあるが、軍務を離れれば実はこういう一面もある奴だった。

「……」

ただし、リーネの方はこいつに助けられたのが不満だったのか、酷く不機嫌な表情だったが。しかも八つ当たりでもするかのように雑魚共を刈り取り、それを踏み付けたのだった。

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