JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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最終章

根が真面目

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「ふっ!!」

短く呼気を放ちつつ間合いをとってエイドリアン・メルケルが再び銃を放つが、ボゲルヌギッショセももちろん大人しくはやられてくれん。

今度は奴の方が口から何かを放ってきた。毒を含んだ粘液を、銃弾よりも速く飛ばしてきたのだ。人間なら掠めただけで死に至る毒性があるし、直撃すればそれこそ鉛弾を喰らわされるのと変わらんものだった。

しかも力は拮抗しているようだ。

いかんせん影だからな。ロヴォネ=レムゥセヘエ辺りが相手だと一対一では実は分が悪かったりする。藤波沙代里が圧していたのは体を巨大化させたことによる質量と、何より勢いがあったからだ。結構優勢に見えてたからもしかしたらとも思ったがさすがにそんなに甘くはなく、止めを刺すまでには至らなかった。それでも力を削ったところをコンスタンティア・エリントンへの連携で勝てたという感じである。真っ向からやり合うとなればボゲルヌギッショセ辺りとほぼ同等か。

だから他の奴で加勢すれば楽に勝てるんだが、エイドリアン・メルケルはそれを望んでなかった。戦いに正々堂々もないもんだろうに、根が真面目な軍人だからな。少々頭が固い。それに第一次世界大戦の頃の軍人だからまだどこか騎士道精神的なところが抜けきっていない部分もある。加勢しようとしたリーネに対して、

「これは小官の役目だ。手出しは無用!」

などと、ちと自分に酔っている言動も見えた。あれも私だったのだが、いささか面映ゆい。

それでもまあ互角にはやってるのだから構わんか。

ボゲルヌギッショセの刃を銃剣で払い除け射撃、瓦礫の上を自在に飛び跳ねる奴に銃弾を浴びせ、間合いを詰めてきたところでまた銃剣で切り払う。かと思えば銃床で顎を突き上げ仰け反ったところを撃つ。まったく生真面目な軍人だ。体術は人並み以上だったからむしろ有利だが、さすがにウェイト差があり過ぎて打撃力で不利かな。さりとて藤波沙代里やコンスタンティア・エリントンのように体を大きくしてハンデを補うだけの余裕も与えてはもらえんか。

「……」

するとそれを見かねたのか、射撃を躱して自分の背後に立ったボゲルヌギッショセに対し、リーネが、全く視線も意識も向けずに鎌《サイズ》を、自分の体を軸に回転させ、刃を突き立てていた。

銃剣では通らなかった奴の皮膚も、大振りの鎌の重量が加わった一撃には抗しきれなかったようだ。ざっくりと奴の脇腹に鎌が刺さり、動きが鈍る。そこへエイドリアン・メルケルがプラズマ化した弾丸を放った。

一発二発は持ち堪えたが、三発四発と連射され、腹に大きな穴が開いたそこに止めの一撃を受け、ボゲルヌギッショセは崩れ落ちたのだった。

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