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春休みの章
死ねない男
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トレアが死に、藍繪正真についての話が終わりに近付いても、戦争は続いていた。大規模な衝突についてはこの町を領地とする領主側の勝利に終わり、しかしそのまま引いては自国にまで攻め入られると考えた隣国が抵抗を続け、散発的な衝突がその後も起こっていたのだ。
藍繪正真はそれに何度も巻き込まれ、その度に命を落とした。トレアを喪ったことで再び自暴自棄になり、復讐、と言うか、トレアを殺した相手が分からん(実はあそこに転がっていた死体の一つが<実行犯>だったんだが)ので半ば八つ当たりのようにして斬りかかったもののその度に返り討ちに遭い、殺されたのである。
しかし巻き戻りによって死ぬこともできん上に、巻き戻ることで精神もリセットされることから狂うことすらできず、藍繪正真はやり場のない感情のままに戦場を彷徨った。
ここで記憶も巻き戻るようにしておかない辺りが私の私たる所以だな。
この頃になるとさすがに藍繪正真も、自分が何度死んでも生き返るようになっているのだということに気付いたようだ。
「何でだよ……! 何で死ねないんだよ……っ!!」
藍繪正真は苛立ち、何度も何度も何度も、無謀な勝負を挑んでは殺された。だが、その度に肉体も精神状態もリセットされ、しかも記憶も鮮明になることから、その度にトレアが死んだ時の感覚が鮮明によみがえり、こいつを苛んだ。
「お、あんた、生きてたんだな」
すでに何十回目かの生き返りかも分からなくなって幽鬼のように呆然と彷徨う藍繪正真に、不意に声が掛けられた。
デインだった。
「う…あ、がぁああぁぁぁああぁぁぁーっっっ!!」
この時点ではもはや兵士と見れば襲い掛かるだけの怪物のようになっていた藍繪正真に斬りかかられ、デインはそれを容赦なく返り討ちにした。
「なにすんだ、お前!」
バッサリと袈裟懸けに斬り伏せられ地面に転がった藍繪正真を見下ろしながら、デインが吐き棄てるように言う。
我ながら実に白々しい
しばらく見ていると、もぞり、と体をよじり、藍繪正真がゆっくりと体を起こした。
「……」
さすがに慣れてしまい。何の感慨もなくその場に座る。
「何があった……?」
白々しいついでに問い掛けると、藍繪正真は座ったままボロボロと涙をこぼし始めた。
「……」
デインも黙ってその様子を見守る。
「う…うぁ……うぁああぁぁあぁぁぁ~……!」
兵士の格好をした男の前で、三十も過ぎた男が声を上げて泣いた。巻き戻る度にトレアを喪った時の感覚が改めて鮮明になり、耐えられなかったのだ。
こいつはこれからも、延々とこれを繰り返すことになる。死ぬことはおろか狂うこともできずにな。
いつまでかって? さあ、それは私にも分らん。四~五百年もすれば飽きるかもしれないがな。
藍繪正真はそれに何度も巻き込まれ、その度に命を落とした。トレアを喪ったことで再び自暴自棄になり、復讐、と言うか、トレアを殺した相手が分からん(実はあそこに転がっていた死体の一つが<実行犯>だったんだが)ので半ば八つ当たりのようにして斬りかかったもののその度に返り討ちに遭い、殺されたのである。
しかし巻き戻りによって死ぬこともできん上に、巻き戻ることで精神もリセットされることから狂うことすらできず、藍繪正真はやり場のない感情のままに戦場を彷徨った。
ここで記憶も巻き戻るようにしておかない辺りが私の私たる所以だな。
この頃になるとさすがに藍繪正真も、自分が何度死んでも生き返るようになっているのだということに気付いたようだ。
「何でだよ……! 何で死ねないんだよ……っ!!」
藍繪正真は苛立ち、何度も何度も何度も、無謀な勝負を挑んでは殺された。だが、その度に肉体も精神状態もリセットされ、しかも記憶も鮮明になることから、その度にトレアが死んだ時の感覚が鮮明によみがえり、こいつを苛んだ。
「お、あんた、生きてたんだな」
すでに何十回目かの生き返りかも分からなくなって幽鬼のように呆然と彷徨う藍繪正真に、不意に声が掛けられた。
デインだった。
「う…あ、がぁああぁぁぁああぁぁぁーっっっ!!」
この時点ではもはや兵士と見れば襲い掛かるだけの怪物のようになっていた藍繪正真に斬りかかられ、デインはそれを容赦なく返り討ちにした。
「なにすんだ、お前!」
バッサリと袈裟懸けに斬り伏せられ地面に転がった藍繪正真を見下ろしながら、デインが吐き棄てるように言う。
我ながら実に白々しい
しばらく見ていると、もぞり、と体をよじり、藍繪正真がゆっくりと体を起こした。
「……」
さすがに慣れてしまい。何の感慨もなくその場に座る。
「何があった……?」
白々しいついでに問い掛けると、藍繪正真は座ったままボロボロと涙をこぼし始めた。
「……」
デインも黙ってその様子を見守る。
「う…うぁ……うぁああぁぁあぁぁぁ~……!」
兵士の格好をした男の前で、三十も過ぎた男が声を上げて泣いた。巻き戻る度にトレアを喪った時の感覚が改めて鮮明になり、耐えられなかったのだ。
こいつはこれからも、延々とこれを繰り返すことになる。死ぬことはおろか狂うこともできずにな。
いつまでかって? さあ、それは私にも分らん。四~五百年もすれば飽きるかもしれないがな。
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