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春休みの章
ただただ不様な死に様
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見た目が綺麗なだけの安物の剣を掴まされた藍繪正真は、僅か一合しただけで剣を折られ、そのまま斬殺された。
多少は抵抗してみせるとか、トレアを守ろうとしていくらかでも話を盛り上げるための見せ場を作るとか、そういうものすら一切ない、ただただ不様な死に様だった。
まあ、こいつには相応しいんだろうがな。
だがこいつは、私が授けた<巻き戻り>の能力により、死ぬこともできん。
戦闘の中心が移動したことで静けさを取り戻したそこには何人もの兵士の死体と、
「う…ぐぇっっ! は、ごほっ! ごふっ!」
ひどく咳き込みながら息を吹き返した藍繪正真の姿があった。
こいつの後で殺された兵士が覆い被さるように倒れ、意識を取り戻して体を動かした時に固まり切ってなかった兵士の血が口の中に流れ込み、それを吸い込んでしまったのだ。
「…が、何だ…くそ…っ!」
口の中に広がる鉄臭い味に覚醒を促され、藍繪正真は体を起こそうとした。
が、それで自分の上に死体が覆い被さっていてその血が口に入ったのだと気付いた途端、
「ごぶおっっ1」
胃の中のものぶちまけてしまった。
「っげぇっっ! ぐ、ぐぶっっ!」
さすがにまだ人間の死体にも血の味にも慣れんか。
「……ぐう…くそぅ……」
口の中に残った吐瀉物を唾と一緒に吐き出して、ぐい、と服の袖で口を拭う。その所為で袖に兵士の血がついてしまったが、今さらだな。
『死んだと思ってたのに、また生き延びたのか、俺……』
まだ<巻き戻り>の力に気付いていなかった藍繪正真は自分がたまたま生き延びたのだと思っているようだ。
するとホッとするよりも先に、ゾワッとした感覚が背筋を奔り抜けた。
『トレア……っ!? そうだ、トレアは…!?」
トレアのことを思い出し、彼女の姿を求めた。
気を失う前に最後に見たのは、剣を構えた兵士が何人も走ってきたのを見て咄嗟に突き飛ばして小屋に隠した時だった。
そのすぐ後で自分も剣を抜いて切りかかってきたのを何とか受け止めたと思ったら折れて、そこから先の記憶がない。殺されたからな。
だが、周囲には彼女の姿はなかった。小屋の扉が開いていたから、
『まさか……!?』
と思って中を覗いたものの、扉を開ければ全てが見渡せる室内はもぬけの殻だった。
『逃げたのか……?』
逃げてくれたのだとしたらホッとする。奴隷が主人である自分を置いて逃げたのだとしたら普通に考えればとんでもないことにも思えたが、この時、藍繪正真は確かにむしろホッとしていたのだ。
しかし、連れ去られた可能性もある。
それを思うと胸がざわつくが、取り敢えず生きていてくれたらそれでいいとも思えたのだった。
多少は抵抗してみせるとか、トレアを守ろうとしていくらかでも話を盛り上げるための見せ場を作るとか、そういうものすら一切ない、ただただ不様な死に様だった。
まあ、こいつには相応しいんだろうがな。
だがこいつは、私が授けた<巻き戻り>の能力により、死ぬこともできん。
戦闘の中心が移動したことで静けさを取り戻したそこには何人もの兵士の死体と、
「う…ぐぇっっ! は、ごほっ! ごふっ!」
ひどく咳き込みながら息を吹き返した藍繪正真の姿があった。
こいつの後で殺された兵士が覆い被さるように倒れ、意識を取り戻して体を動かした時に固まり切ってなかった兵士の血が口の中に流れ込み、それを吸い込んでしまったのだ。
「…が、何だ…くそ…っ!」
口の中に広がる鉄臭い味に覚醒を促され、藍繪正真は体を起こそうとした。
が、それで自分の上に死体が覆い被さっていてその血が口に入ったのだと気付いた途端、
「ごぶおっっ1」
胃の中のものぶちまけてしまった。
「っげぇっっ! ぐ、ぐぶっっ!」
さすがにまだ人間の死体にも血の味にも慣れんか。
「……ぐう…くそぅ……」
口の中に残った吐瀉物を唾と一緒に吐き出して、ぐい、と服の袖で口を拭う。その所為で袖に兵士の血がついてしまったが、今さらだな。
『死んだと思ってたのに、また生き延びたのか、俺……』
まだ<巻き戻り>の力に気付いていなかった藍繪正真は自分がたまたま生き延びたのだと思っているようだ。
するとホッとするよりも先に、ゾワッとした感覚が背筋を奔り抜けた。
『トレア……っ!? そうだ、トレアは…!?」
トレアのことを思い出し、彼女の姿を求めた。
気を失う前に最後に見たのは、剣を構えた兵士が何人も走ってきたのを見て咄嗟に突き飛ばして小屋に隠した時だった。
そのすぐ後で自分も剣を抜いて切りかかってきたのを何とか受け止めたと思ったら折れて、そこから先の記憶がない。殺されたからな。
だが、周囲には彼女の姿はなかった。小屋の扉が開いていたから、
『まさか……!?』
と思って中を覗いたものの、扉を開ければ全てが見渡せる室内はもぬけの殻だった。
『逃げたのか……?』
逃げてくれたのだとしたらホッとする。奴隷が主人である自分を置いて逃げたのだとしたら普通に考えればとんでもないことにも思えたが、この時、藍繪正真は確かにむしろホッとしていたのだ。
しかし、連れ去られた可能性もある。
それを思うと胸がざわつくが、取り敢えず生きていてくれたらそれでいいとも思えたのだった。
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