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春休みの章
いいから受け取れ
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「え…? これを私に、ですか…!?」
安物ではあったが服を買って帰った藍繪正真がそれを差し出すと、トレアが驚いて手で口を覆った。加えて目に涙まで浮かべている。
まあ、一般的な奴隷が着てても何もおかしくない程度のそれではあっても、主人が自ら自分の服を買ってくれてしかも手渡ししてくれるとなれば、奴隷の身にとっては思いもかけぬ幸せではあろうな。
「着替えだ。いいから受け取れ。命令だ……」
短くそう命じた主人から服を受け取り、トレアはそれを大事そうに胸にギュッと抱き締めた。
そんなトレアの姿を見てると、藍繪正真の方もなんとも言えない気分になってくる。
『なんか…可愛いな、こいつ……』
自然とそんなことも思ってしまう。
だから、トレアのそんな姿が見たくて、藍繪正真は次の日も仕事を頑張った。
『子供の為に頑張るとかバカバカしい』
そんな風に思っていたはずなのに、実際にトレアが嬉しそうにすると自分も何とも言えない気分になるのだ。
『もしかして、俺、嬉しいのか……?』
裸足だったトレアのために次は中古のサンダルのような靴を買った。何かの動物の皮で作られ、何度も修理が行われた跡のある、現代日本人にはゴミにしか思えないようなものだったが、それでも裸足でいることも多い奴隷には贅沢だったかもしれん。
「私なんかのために、本当にありがとうございます……」
トレアは地面に膝をついて深々と頭を下げた。
「気にすんな。俺が見ててなんか痛そうで嫌なだけなんだよ…」
確かに、本人は慣れているからいいとしても、藍繪正真にとっては、まだ小学校に通ってそうな少女が常に裸足でいるのを見るのは、痛みが想像されてしまって嫌だったのだ。
だからトレアのためという以上に、藍繪正真自身のためというのは正直言ってある。
それでも、トレアが嬉しそうな表情をしているのを見るのは、悪い気はしなかった。
『なんか俺、こっちの世界の方が幸せになれんじゃね……?』
そんな風にも思ってしまった。
だが、人生ってやつはそんなに甘くはなかったな。
ましてやこいつは、自分が不幸だったからといって他人も巻き添えにした上で両親を<通り魔殺人犯の親>に仕立て上げ、地獄に突き落とそうとするような奴だ。自ら不幸を呼び寄せようとしていたのだ。
故に不幸は、見逃してはくれんようだ。
二人が住む町を目指し、行軍する者達がいた。隣国との戦争に踏み切った領主が抱える軍だった。
しかもその動きを察し、敵対する側の国も軍を差し向けていた。
それがいよいよ、衝突しようとしていたのである。
安物ではあったが服を買って帰った藍繪正真がそれを差し出すと、トレアが驚いて手で口を覆った。加えて目に涙まで浮かべている。
まあ、一般的な奴隷が着てても何もおかしくない程度のそれではあっても、主人が自ら自分の服を買ってくれてしかも手渡ししてくれるとなれば、奴隷の身にとっては思いもかけぬ幸せではあろうな。
「着替えだ。いいから受け取れ。命令だ……」
短くそう命じた主人から服を受け取り、トレアはそれを大事そうに胸にギュッと抱き締めた。
そんなトレアの姿を見てると、藍繪正真の方もなんとも言えない気分になってくる。
『なんか…可愛いな、こいつ……』
自然とそんなことも思ってしまう。
だから、トレアのそんな姿が見たくて、藍繪正真は次の日も仕事を頑張った。
『子供の為に頑張るとかバカバカしい』
そんな風に思っていたはずなのに、実際にトレアが嬉しそうにすると自分も何とも言えない気分になるのだ。
『もしかして、俺、嬉しいのか……?』
裸足だったトレアのために次は中古のサンダルのような靴を買った。何かの動物の皮で作られ、何度も修理が行われた跡のある、現代日本人にはゴミにしか思えないようなものだったが、それでも裸足でいることも多い奴隷には贅沢だったかもしれん。
「私なんかのために、本当にありがとうございます……」
トレアは地面に膝をついて深々と頭を下げた。
「気にすんな。俺が見ててなんか痛そうで嫌なだけなんだよ…」
確かに、本人は慣れているからいいとしても、藍繪正真にとっては、まだ小学校に通ってそうな少女が常に裸足でいるのを見るのは、痛みが想像されてしまって嫌だったのだ。
だからトレアのためという以上に、藍繪正真自身のためというのは正直言ってある。
それでも、トレアが嬉しそうな表情をしているのを見るのは、悪い気はしなかった。
『なんか俺、こっちの世界の方が幸せになれんじゃね……?』
そんな風にも思ってしまった。
だが、人生ってやつはそんなに甘くはなかったな。
ましてやこいつは、自分が不幸だったからといって他人も巻き添えにした上で両親を<通り魔殺人犯の親>に仕立て上げ、地獄に突き落とそうとするような奴だ。自ら不幸を呼び寄せようとしていたのだ。
故に不幸は、見逃してはくれんようだ。
二人が住む町を目指し、行軍する者達がいた。隣国との戦争に踏み切った領主が抱える軍だった。
しかもその動きを察し、敵対する側の国も軍を差し向けていた。
それがいよいよ、衝突しようとしていたのである。
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