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春休みの章
極貧生活
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こうして、藍繪正真とトレアの二人暮らしが始まった。
ちょっとした地震が来ればすぐに倒れそうな、川が氾濫すれば落ち葉のように流されそうな、少し雨が降っただけでぼとぼとと雨漏りがする、現代日本の感覚で言えば犬小屋としても酷いと言われそうな小屋での極貧生活だったが、藍繪正真には不思議と不満はなかった。
テレビもない、パソコンもない、スマホもない。
アニメも見られない、マンガも読めない。
そんな生活にも拘わらずだ。
唯一不満があるとすれば、トレアがベッドでは寝ようとせず、ささくれ立った床板の上に直に寝ていることだろうか。確かに二人で寝るには小さいが、体を寄せれば何とか寝られるというのに。
だから、一緒に暮らし始めてから一週間ほどして、藍繪正真は命じた。
「こっちに来て一緒に寝ろ…!」
その命令は、トレアにとっては別の意味を想起させるものだった。
『ああ…いよいよご主人様にご奉仕できる……!』
彼女はそう喜んだ。家事炊事はもちろん大事な仕事だったが、彼女にはすでに男を悦ばせるための技も仕込まれていた。むしろそれが一番の役目のはずだった。
が、この<主人>はまったく自分に触れようとさえしない。
その所為で最初は不安にもなった。
『こんなにお優しい御主人様なのに、どうして私を使ってくださらないのでしょう……』
と。
奴隷にとっては、自分の役目を果たせないことはむしろ『役立たずの欠陥品』と言われているのと同じだった。
もちろん、相手によってはその役目を果たすのは辛い場合もあっただろうが、トレアにとって藍繪正真は、彼女が知る限りでは最高と言っていい主人だった。生活は楽でなくても、別にそれで困ることもなかったからな。
ただ、家の周囲の野草は既にほぼ取り尽くしており、しかもこれから冬に向けて食料の確保が難しくなっていくという懸念はあったものの、その辺りも自分が大道芸を披露し日銭を稼げば何とかなると思っていた。
もっとも、藍繪正真の方はそこまで考えていなかったが。
『なんか、仕事しなきゃいけないんだろうな……』
と思っていただけだ。
現代日本にいた時には、仕事など好き好んでするものじゃないと思っていた。生活しなきゃいけないからするんだろうなと思っていた。
それはここでも変わらないものの、
『生活保護とかでも生きていけんじゃね?』
とは思えたあちらと違い、もっと切実で身に迫る感覚はあっただろう。
何より、
『こいつを養わなきゃいけないよな……』
トレアを見るとそう思わされた。こんなに華奢で幼いながらも自分のために尽くそうとしてくれる存在が、藍繪正真を揺さぶったのだ。
ちょっとした地震が来ればすぐに倒れそうな、川が氾濫すれば落ち葉のように流されそうな、少し雨が降っただけでぼとぼとと雨漏りがする、現代日本の感覚で言えば犬小屋としても酷いと言われそうな小屋での極貧生活だったが、藍繪正真には不思議と不満はなかった。
テレビもない、パソコンもない、スマホもない。
アニメも見られない、マンガも読めない。
そんな生活にも拘わらずだ。
唯一不満があるとすれば、トレアがベッドでは寝ようとせず、ささくれ立った床板の上に直に寝ていることだろうか。確かに二人で寝るには小さいが、体を寄せれば何とか寝られるというのに。
だから、一緒に暮らし始めてから一週間ほどして、藍繪正真は命じた。
「こっちに来て一緒に寝ろ…!」
その命令は、トレアにとっては別の意味を想起させるものだった。
『ああ…いよいよご主人様にご奉仕できる……!』
彼女はそう喜んだ。家事炊事はもちろん大事な仕事だったが、彼女にはすでに男を悦ばせるための技も仕込まれていた。むしろそれが一番の役目のはずだった。
が、この<主人>はまったく自分に触れようとさえしない。
その所為で最初は不安にもなった。
『こんなにお優しい御主人様なのに、どうして私を使ってくださらないのでしょう……』
と。
奴隷にとっては、自分の役目を果たせないことはむしろ『役立たずの欠陥品』と言われているのと同じだった。
もちろん、相手によってはその役目を果たすのは辛い場合もあっただろうが、トレアにとって藍繪正真は、彼女が知る限りでは最高と言っていい主人だった。生活は楽でなくても、別にそれで困ることもなかったからな。
ただ、家の周囲の野草は既にほぼ取り尽くしており、しかもこれから冬に向けて食料の確保が難しくなっていくという懸念はあったものの、その辺りも自分が大道芸を披露し日銭を稼げば何とかなると思っていた。
もっとも、藍繪正真の方はそこまで考えていなかったが。
『なんか、仕事しなきゃいけないんだろうな……』
と思っていただけだ。
現代日本にいた時には、仕事など好き好んでするものじゃないと思っていた。生活しなきゃいけないからするんだろうなと思っていた。
それはここでも変わらないものの、
『生活保護とかでも生きていけんじゃね?』
とは思えたあちらと違い、もっと切実で身に迫る感覚はあっただろう。
何より、
『こいつを養わなきゃいけないよな……』
トレアを見るとそう思わされた。こんなに華奢で幼いながらも自分のために尽くそうとしてくれる存在が、藍繪正真を揺さぶったのだ。
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