435 / 562
春休みの章
所詮は作り話
しおりを挟む
何度も言うが、<リアルな中世ヨーロッパ>を描写したらおよそこの感じになるだろう。そんな中で美少女とキャッキャウフフしてられると思うか?
見てて楽しい美少女と出逢えて好かれてとかあると思うか? できの悪い農耕馬を無理矢理人間にしたかのような、二十代前半でありながら三十過ぎの藍繪正真よりも下手をしたら年上にも見えそうなムサい男と一緒の部屋に泊まるのが関の山だぞ?
そんな話を見たいのか?
フィクションなど所詮は作り話なんだから、『フィクションでまで世知辛い現実とか見たくない』と言うのなら、<リアルさ>なんか捨てちまえ。適当でいいんだよ適当で。
まあ、私なんかは、
<現代日本で自分がどれだけ楽な恵まれた暮らしをしてきたか思い知らされる殺人鬼(未遂)>
を見てるだけでも面白いがな。
こういう世界で生きていれば、そりゃ、
<自分を勝手にこの世に送り出しておいてちゃんと向き合おうともしない親>
ごときに精神を病むほどムカついてもいられないよな。自分が生きるのに必死過ぎで。
そして同時に、この世界では人間の命など安いものだ。生と死が隣り合わせでいつ死んでもおかしくないから、現代日本ほど拘ってもいられない。誰が死んでも、その時は悲しむかも知れんが、いつまでも引きずっていられない。
『誰かを苦しめてやりたいから人を殺す』
なんてのがそもそも大してダメージにならんかったりするのだ。
藍繪正真も無意識のうちにそれは感じ取っているのか、それとも今の状況に馴染むのに手間取っていてそれどころではないのか、殺人に対する欲求がすっとんでしまっているようだ。
ともあれ、せっかくベッドに横になったのにシラミに噛まれて痒くてほとんど寝られないまま、藍繪正真は次の朝を迎えたのだ。
「ひでぇ顔だな。寝られなかったのか?」
ガラスの入っていない窓を開けて日の光を取り込んだ部屋の中で、デインは藍繪正真の顔を見て言った。
確かに昨日とはまるで別人のようにやつれた男の姿がそこにあった。
「煩い……」
そう言いかえすものの、それすら力がない。
「ま、俺はこれからまた他の領主様のところに行って兵士として雇ってもらうつもりだからよ。あんたは旅を続けるんなら好きにしな」
そう言ってデインは先に宿を出て行った。二人分の代金を払って。
と言っても手持ちがなかったからな。私が<力>で作った金だ。さりとてこの世界の金を完全に再現してるから、実質本物ではある。
「くそっ……どうすりゃいいんだよ……」
どうすりゃいいも何も、人間を殺しまくりたかったんだろう? だったらさっそく殺しまくればいい。どうせこの町も近々戦争に巻き込まれて住人の大半が犠牲になるだろう。
今、お前が手当たり次第に殺しても、大して変わらんぞ。
見てて楽しい美少女と出逢えて好かれてとかあると思うか? できの悪い農耕馬を無理矢理人間にしたかのような、二十代前半でありながら三十過ぎの藍繪正真よりも下手をしたら年上にも見えそうなムサい男と一緒の部屋に泊まるのが関の山だぞ?
そんな話を見たいのか?
フィクションなど所詮は作り話なんだから、『フィクションでまで世知辛い現実とか見たくない』と言うのなら、<リアルさ>なんか捨てちまえ。適当でいいんだよ適当で。
まあ、私なんかは、
<現代日本で自分がどれだけ楽な恵まれた暮らしをしてきたか思い知らされる殺人鬼(未遂)>
を見てるだけでも面白いがな。
こういう世界で生きていれば、そりゃ、
<自分を勝手にこの世に送り出しておいてちゃんと向き合おうともしない親>
ごときに精神を病むほどムカついてもいられないよな。自分が生きるのに必死過ぎで。
そして同時に、この世界では人間の命など安いものだ。生と死が隣り合わせでいつ死んでもおかしくないから、現代日本ほど拘ってもいられない。誰が死んでも、その時は悲しむかも知れんが、いつまでも引きずっていられない。
『誰かを苦しめてやりたいから人を殺す』
なんてのがそもそも大してダメージにならんかったりするのだ。
藍繪正真も無意識のうちにそれは感じ取っているのか、それとも今の状況に馴染むのに手間取っていてそれどころではないのか、殺人に対する欲求がすっとんでしまっているようだ。
ともあれ、せっかくベッドに横になったのにシラミに噛まれて痒くてほとんど寝られないまま、藍繪正真は次の朝を迎えたのだ。
「ひでぇ顔だな。寝られなかったのか?」
ガラスの入っていない窓を開けて日の光を取り込んだ部屋の中で、デインは藍繪正真の顔を見て言った。
確かに昨日とはまるで別人のようにやつれた男の姿がそこにあった。
「煩い……」
そう言いかえすものの、それすら力がない。
「ま、俺はこれからまた他の領主様のところに行って兵士として雇ってもらうつもりだからよ。あんたは旅を続けるんなら好きにしな」
そう言ってデインは先に宿を出て行った。二人分の代金を払って。
と言っても手持ちがなかったからな。私が<力>で作った金だ。さりとてこの世界の金を完全に再現してるから、実質本物ではある。
「くそっ……どうすりゃいいんだよ……」
どうすりゃいいも何も、人間を殺しまくりたかったんだろう? だったらさっそく殺しまくればいい。どうせこの町も近々戦争に巻き込まれて住人の大半が犠牲になるだろう。
今、お前が手当たり次第に殺しても、大して変わらんぞ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
深淵の孤独
阿波野治
ホラー
中学二年生の少年・楠部龍平は早起きをした朝、学校の校門に切断された幼い少女の頭部が放置されているのを発見。気が動転するあまり、あろうことか頭部を自宅に持ち帰ってしまう。龍平は殺人鬼の復讐に怯え、頭部の処理に思い悩む、暗鬱で孤独な日々を強いられる。
怪異から論理の糸を縒る
板久咲絢芽
ホラー
怪異は科学ではない。
何故なら彼此の前提条件が判然としないが故に、同じものを再現できないから。
それ故に、それはオカルト、秘されしもの、すなわち神秘である。
――とはいえ。
少なからず傾向というものはあるはずだ。
各地に散らばる神話や民話のように、根底に潜む文脈、すなわち暗黙の了解を紐解けば。
まあ、それでも、どこまで地層を掘るか、どう継いで縒るかはあるけどね。
普通のホラーからはきっとズレてるホラー。
屁理屈だって理屈だ。
出たとこ勝負でしか書いてない。
side Aは問題解決編、Bは読解編、みたいな。
ちょこっとミステリ風味を利かせたり、ぞくぞくしてもらえたらいいな、を利かせたり。
基本章単位で一区切りだから安心して(?)読んでほしい
※タイトル胴体着陸しました
カクヨムさんに先行投稿中(編集気質布教希望友人に「いろんなとこで投稿しろ、もったいないんじゃ」とつつかれたので)
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
出雲の駄菓子屋日誌
にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。
主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。
中には、いわくつきの物まで。
年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。
目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。
GATEKEEPERS 四神奇譚
碧
ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。
ゲートキーパーって知ってる?
少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる