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春休みの章
ケンスケ
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家に帰る途中、日下言葉は、ケンスケのことを思い出していた。
ケンスケは、先ほども言ったようにパグという犬種で、日下言葉の家で飼われていたのだった。
彼女の家庭は代々犬が好きで、ずっと犬を飼ってきた。同時に二頭三頭といるのはむしろ当たり前で、しかも優れた飼い主であり、上手く躾けて良好な関係を築いてきたのだ。
その中でもケンスケは、日下言葉が生まれた時に日下家に来て、彼女と一緒に育った仲だった。その所為かケンスケは彼女にとても懐き、彼女もまた、ケンスケのことが一番好きだった。
けれど、命あるものはいつか終わりを迎える。
ケンスケも、十歳と、今時で考えるとやや早いくらいかもしれないが、実は生まれつきの疾患があり、本来なら三歳くらいまでしか生きられないだろうと言われていたのが十歳まで生きてみせた犬だった。
そして両親の願い通り、<命の輝き>というものを娘にしっかりと見せてくれていた。
だから日下言葉にとっても特に思い入れの強い<家族>だったのだろう。
と、ケンスケのことを思い出しながら家路を急いでいた彼女の背後をつけるかのように歩く人影があった。
彼女が図書館から出てきた時にたまたま見かけ、そこからつけてきたようだ。
『痴漢に注意』
と書かれた看板に身を隠すかのようにしているそいつは、明らかにまともじゃない目付きをした中年男だった。
まるで獲物を見る獣の如き視線で日下言葉の姿を捉えている。
どうやら、こいつの好みの少女だったようだ。日下言葉は。
だが、自分がそのような輩に目を付けられているとはまったく気付かず、彼女はただまっすぐ前を向いて歩く。そのまっすぐな心が現れていると言えるだろうな。
しかしこのままでは、自宅を突き止められてしまうかもしれない。そうなれば、家に一人で留守番をしていたりした時に狙われてしまう可能性もある。
が、そんな日下言葉をつける男を睨み付けている視線があった。
背は小さく、そのクセ横幅はアンバランスなほどに大きい、樽のような体形をした男。
貴志騨一成だった。貴志騨一成が、男を睨み付けていたのである。
『あいつ……』
男を睨み付ける貴志騨一成は、察していた。彼が知る気配を男が発していることを。
以前、玖島楓恋を襲おうとした連続レイプ魔のそれと同じ気配だった。
たまたま通りがかってそれに気付いてしまい、つい後をつけてしまったのだ。
男は、日下言葉と違って周囲を警戒していたが、普通なら目立ちそうな貴志騨一成の姿には気付いていなかった。
というのも、その身に黒厄の餓獣を宿した今の貴志騨一成は、普通の人間よりも気配を殺すことに長けていたのである。
ケンスケは、先ほども言ったようにパグという犬種で、日下言葉の家で飼われていたのだった。
彼女の家庭は代々犬が好きで、ずっと犬を飼ってきた。同時に二頭三頭といるのはむしろ当たり前で、しかも優れた飼い主であり、上手く躾けて良好な関係を築いてきたのだ。
その中でもケンスケは、日下言葉が生まれた時に日下家に来て、彼女と一緒に育った仲だった。その所為かケンスケは彼女にとても懐き、彼女もまた、ケンスケのことが一番好きだった。
けれど、命あるものはいつか終わりを迎える。
ケンスケも、十歳と、今時で考えるとやや早いくらいかもしれないが、実は生まれつきの疾患があり、本来なら三歳くらいまでしか生きられないだろうと言われていたのが十歳まで生きてみせた犬だった。
そして両親の願い通り、<命の輝き>というものを娘にしっかりと見せてくれていた。
だから日下言葉にとっても特に思い入れの強い<家族>だったのだろう。
と、ケンスケのことを思い出しながら家路を急いでいた彼女の背後をつけるかのように歩く人影があった。
彼女が図書館から出てきた時にたまたま見かけ、そこからつけてきたようだ。
『痴漢に注意』
と書かれた看板に身を隠すかのようにしているそいつは、明らかにまともじゃない目付きをした中年男だった。
まるで獲物を見る獣の如き視線で日下言葉の姿を捉えている。
どうやら、こいつの好みの少女だったようだ。日下言葉は。
だが、自分がそのような輩に目を付けられているとはまったく気付かず、彼女はただまっすぐ前を向いて歩く。そのまっすぐな心が現れていると言えるだろうな。
しかしこのままでは、自宅を突き止められてしまうかもしれない。そうなれば、家に一人で留守番をしていたりした時に狙われてしまう可能性もある。
が、そんな日下言葉をつける男を睨み付けている視線があった。
背は小さく、そのクセ横幅はアンバランスなほどに大きい、樽のような体形をした男。
貴志騨一成だった。貴志騨一成が、男を睨み付けていたのである。
『あいつ……』
男を睨み付ける貴志騨一成は、察していた。彼が知る気配を男が発していることを。
以前、玖島楓恋を襲おうとした連続レイプ魔のそれと同じ気配だった。
たまたま通りがかってそれに気付いてしまい、つい後をつけてしまったのだ。
男は、日下言葉と違って周囲を警戒していたが、普通なら目立ちそうな貴志騨一成の姿には気付いていなかった。
というのも、その身に黒厄の餓獣を宿した今の貴志騨一成は、普通の人間よりも気配を殺すことに長けていたのである。
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