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春休みの章
健気な妹
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三十分ほどうずくまった後にようやくもう大丈夫そうだと体を起こした少年は、不貞腐れた顔で帰路に就いた。
『やっとか……』
赤島出姫織としてもこれでやっと帰れると思い、家路に就く。
これが、魔法使いとしての赤島出姫織の日常の一コマである。
本当なら放っておけばいいものの、それができないというのも、月城こよみに似ているだろう。
本質的には似た者同士であり、それが故の同族嫌悪のようなものもあったのかもしれんな。
加えて、『放っておけない』という気性が悪い方向に出たというのもあるか。
これと同じ頃、もう一人の<魔法使い>である新伊崎千晶は、姉の千歳と一緒に出掛けていた。
今日は千歳が気に入っているバンドのライブを見に行ったのだ。
形の上では家にいながらも、認識阻害と結界により両親とは断絶状態にあるクセによくそんな金があると思うだろうが、実は新伊崎千晶がショ=クォ=ヨ=ムイに憑かれていた頃に得たネットの知識を駆使してアフィリエイトサイトを運営し、一ヶ月に数万円程度ではあるが収入を得ていたのである。
今回は、妹が姉にライブチケットをプレゼントしたという形であった。
「なんか悪いわね」
そう言いながらもあまり悪びれているとは見えない様子で千歳が言った。
「ううん…いいの。お姉ちゃんが喜んでくれたらそれで……」
すっかり、<お姉ちゃん大好きな健気な妹>と化した新伊崎千晶が少し頬を染めながら応える。
千歳の方も、自分に懐いてくる妹を煩わしく思いながらも、今では依存さえしていた。と言うか、生活から何からすべて新伊崎千晶に頼りきりではあるがな。
ちなみに、以前は薬物による幻覚と解釈していた自身の周りで起こる超常現象についても、ようやく『そういうもの』として受け入れてもいる。
その上で、自分には関係ないことと無視しているようだ。
そんなことよりも、親に甘えられなかった分を取り戻そうとでもするかのように、妹に甘えるのが忙しいのだろう。
実に歪な関係ではあるものの、少なくとも完全にバラバラになっていた以前のそれよりはまだマシなのだろうな。他人の目からも<普通の仲の良い姉妹>に見えるのだから。
ただ、それでも、新伊崎千晶の方には魔法使いであるが故の因縁が付いて回った。
今も、真っ黒で四つの赤い目を持つ<獣>が自分を見詰めているのが分かってしまった。犬に似ているが、犬ではない。大きさはライオンの成獣ほどあり、頭からは長く触角が伸びている。それが涎を垂らしながらこちらを見てるのだ。
『またか……』
辟易した様子で視線は向けずにその獣の様子を窺う。攻撃を仕掛けてくるようであれば放ってはおけないからだった。
『やっとか……』
赤島出姫織としてもこれでやっと帰れると思い、家路に就く。
これが、魔法使いとしての赤島出姫織の日常の一コマである。
本当なら放っておけばいいものの、それができないというのも、月城こよみに似ているだろう。
本質的には似た者同士であり、それが故の同族嫌悪のようなものもあったのかもしれんな。
加えて、『放っておけない』という気性が悪い方向に出たというのもあるか。
これと同じ頃、もう一人の<魔法使い>である新伊崎千晶は、姉の千歳と一緒に出掛けていた。
今日は千歳が気に入っているバンドのライブを見に行ったのだ。
形の上では家にいながらも、認識阻害と結界により両親とは断絶状態にあるクセによくそんな金があると思うだろうが、実は新伊崎千晶がショ=クォ=ヨ=ムイに憑かれていた頃に得たネットの知識を駆使してアフィリエイトサイトを運営し、一ヶ月に数万円程度ではあるが収入を得ていたのである。
今回は、妹が姉にライブチケットをプレゼントしたという形であった。
「なんか悪いわね」
そう言いながらもあまり悪びれているとは見えない様子で千歳が言った。
「ううん…いいの。お姉ちゃんが喜んでくれたらそれで……」
すっかり、<お姉ちゃん大好きな健気な妹>と化した新伊崎千晶が少し頬を染めながら応える。
千歳の方も、自分に懐いてくる妹を煩わしく思いながらも、今では依存さえしていた。と言うか、生活から何からすべて新伊崎千晶に頼りきりではあるがな。
ちなみに、以前は薬物による幻覚と解釈していた自身の周りで起こる超常現象についても、ようやく『そういうもの』として受け入れてもいる。
その上で、自分には関係ないことと無視しているようだ。
そんなことよりも、親に甘えられなかった分を取り戻そうとでもするかのように、妹に甘えるのが忙しいのだろう。
実に歪な関係ではあるものの、少なくとも完全にバラバラになっていた以前のそれよりはまだマシなのだろうな。他人の目からも<普通の仲の良い姉妹>に見えるのだから。
ただ、それでも、新伊崎千晶の方には魔法使いであるが故の因縁が付いて回った。
今も、真っ黒で四つの赤い目を持つ<獣>が自分を見詰めているのが分かってしまった。犬に似ているが、犬ではない。大きさはライオンの成獣ほどあり、頭からは長く触角が伸びている。それが涎を垂らしながらこちらを見てるのだ。
『またか……』
辟易した様子で視線は向けずにその獣の様子を窺う。攻撃を仕掛けてくるようであれば放ってはおけないからだった。
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