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春休みの章
屈託のない笑顔
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「赤島出…か? おはよう」
「左近瑞くん……」
家にいると息が詰まりそうだったので、取り敢えず当てはないものの家を出た赤島出姫織は、同じ学年の左近瑞優星とばったり出会った。
必ずしも<イケメン>とは言えないにも拘わらず、その一方で生理的嫌悪感を呼び起こすような不潔さや不気味さは感じさせない左近瑞優星は、赤島出姫織と同じ小学校の出身で、一時期、多少の好意を寄せていた相手でもある。
しかし精神的に荒んでいったことで想い続ける余裕もなくなり、元々あまり親しいわけでもなかったのもあって疎遠になっていたのだった。
ただ、最近、時折廊下ですれ違ったりすると、
「よ!」
などと左近瑞優星の方から声を掛けてくることもあり、何となく挨拶くらい交わすようになってたのである。
「買い物か?」
そう話しかけられて、赤島出姫織は少し戸惑ったように視線を逸らしながら、
「別に……暇だったからぶらついてただけ……」
と、愛想のない答えを返す。
すると左近瑞優星は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、
「そうか! ならちょっと付き合ってくれよ」
と誘ってきた。
「え……でも……」
困惑する彼女の手を取り、
「まあまあ、いいからいいから」
やや強引に引っ張っていく。
しかし赤島出姫織の方も、躊躇いながらも強く抵抗することはなく、ついていくことになった。
もっとも、この時、左近瑞優星としても、彼女が拒んでいる気配がなかったことでそこまで強引にできたのだが。基本的にはあまりそういう態度にでるタイプではなかったのだ。
『不思議……なんか嫌じゃない……』
サタニキール=ヴェルナギュアヌェの一件で徹底的に嬲りものにされたことからそれがトラウマとして残ってしまっていたにも拘わらず、手を握られても強い嫌悪感はなかった。
乱暴に握られた訳じゃなかったからかもしれない。あくまで包み込むように、赤島出姫織の反応を確かめながら、促すような感じで引っ張ったからだろうか。そこに気遣いを感じたからだろうか。
実は最近、彼女の雰囲気が柔らかくなったということで、男子が言い寄ったりしていたのだ。しかし赤島出姫織はそれらすべてを断っていた。私のカウンセリングもあり随分とマシにはなったもののトラウマは残っており、とても男と付き合うような気分にはならなかったからだ。
それなのに。
左近瑞優星に導かれるままに、彼女はゲームセンターへときていた。
「赤島出とこうやってデートしてみたかったんだ」
さらっと何気ない感じでそう言われて、赤島出姫織の顔がカアッと赤くなる。
「デー……!?」
と声を詰まらせた彼女に、彼は屈託のない笑顔を向けたのであった。
「左近瑞くん……」
家にいると息が詰まりそうだったので、取り敢えず当てはないものの家を出た赤島出姫織は、同じ学年の左近瑞優星とばったり出会った。
必ずしも<イケメン>とは言えないにも拘わらず、その一方で生理的嫌悪感を呼び起こすような不潔さや不気味さは感じさせない左近瑞優星は、赤島出姫織と同じ小学校の出身で、一時期、多少の好意を寄せていた相手でもある。
しかし精神的に荒んでいったことで想い続ける余裕もなくなり、元々あまり親しいわけでもなかったのもあって疎遠になっていたのだった。
ただ、最近、時折廊下ですれ違ったりすると、
「よ!」
などと左近瑞優星の方から声を掛けてくることもあり、何となく挨拶くらい交わすようになってたのである。
「買い物か?」
そう話しかけられて、赤島出姫織は少し戸惑ったように視線を逸らしながら、
「別に……暇だったからぶらついてただけ……」
と、愛想のない答えを返す。
すると左近瑞優星は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、
「そうか! ならちょっと付き合ってくれよ」
と誘ってきた。
「え……でも……」
困惑する彼女の手を取り、
「まあまあ、いいからいいから」
やや強引に引っ張っていく。
しかし赤島出姫織の方も、躊躇いながらも強く抵抗することはなく、ついていくことになった。
もっとも、この時、左近瑞優星としても、彼女が拒んでいる気配がなかったことでそこまで強引にできたのだが。基本的にはあまりそういう態度にでるタイプではなかったのだ。
『不思議……なんか嫌じゃない……』
サタニキール=ヴェルナギュアヌェの一件で徹底的に嬲りものにされたことからそれがトラウマとして残ってしまっていたにも拘わらず、手を握られても強い嫌悪感はなかった。
乱暴に握られた訳じゃなかったからかもしれない。あくまで包み込むように、赤島出姫織の反応を確かめながら、促すような感じで引っ張ったからだろうか。そこに気遣いを感じたからだろうか。
実は最近、彼女の雰囲気が柔らかくなったということで、男子が言い寄ったりしていたのだ。しかし赤島出姫織はそれらすべてを断っていた。私のカウンセリングもあり随分とマシにはなったもののトラウマは残っており、とても男と付き合うような気分にはならなかったからだ。
それなのに。
左近瑞優星に導かれるままに、彼女はゲームセンターへときていた。
「赤島出とこうやってデートしてみたかったんだ」
さらっと何気ない感じでそう言われて、赤島出姫織の顔がカアッと赤くなる。
「デー……!?」
と声を詰まらせた彼女に、彼は屈託のない笑顔を向けたのであった。
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