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春休みの章
春休み
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代田真登美と玖島楓恋が卒業し、私達も終業式を迎え、春休みが始まった。
「あ~、私達も三年生か~」
いつものごとく私の家に集まり、月城こよみが気怠そうに呟いた。
「だね。正直、実感はないけど」
黄三縞亜蓮が微笑みながら応える。最近、ますます表情が柔和になってきているようだ。そして手は常に自分の腹に添えられている。
出産予定日は五月下旬ということで、既に誤魔化しがきかないくらいに腹も大きくなってきていた。それに伴い、別に意図的に噂を流さずとも誰もが妊娠に気付いている状態だった。
だが学校側の懸命の働きかけにより大きな騒ぎにはなっていない。
もっとも、それには月城こよみによるちょっとした細工も影響していたのだが。月城こよみが、軽い認識阻害を常にかけているのである。それによって過度に反応することが抑えられているというわけだ。
さりとて、それでもなお『黄三縞亜蓮の腹の子の父親は肥土透』という噂は自然発生的に生じていたが。まあこれについては学校側としてももはや対処のしようもないので、あまり騒ぎにならないうちは黙認としているようではある。
「体の方は大丈夫か? 黄三縞」
黄三縞亜蓮との関係を取り沙汰されている肥土徹だったものの、本人はそんなことなどまるで意に介していなかった。むしろ、自分の子だと思われている方が好都合だとばかりに、慈愛に満ちた目で黄三縞亜蓮のことを見詰め、気遣う。
「うん。大丈夫だよ、肥土君」
二人は決して『付き合っている』わけではない。しかしその関係性はもはや<夫婦>と言ってもいいかもしれん。
そんな二人のことを月城こよみがどう思っているかと言えば、別に嫉妬しているだとかそんな様子はまるでなかった。
そうすることが当然であるかのように、三人でいつもつるみ、家族のように振る舞っている。
そう、<家族>なのだ。恋人とか夫婦とかという限られたそれでなく、三人で一つの家族を形成しているということだ。
まったく、大したものだよ。
と、こちらの三人はまあそれでいいとして、問題は赤島出姫織の方だった。
母親との確執については、これといって進展もないものの、だからといって悪化している訳でもない。その点ではまあ安定していると言っていいだろう。
ただ、<魔法使い>であるが故に、つまらんことに巻き込まれていることが多いようなのだ。
いや、巻き込まれていると言うか首を突っ込んでいると言うか。
『魔法は使わない』
そう言っていた赤島出姫織だったが、現実にはなかなかそうはいかない。なにしろ、普通の人間には見えないものが見えてしまい、それによって厄介事の方が勝手に関わってくるのである。
「あ~、私達も三年生か~」
いつものごとく私の家に集まり、月城こよみが気怠そうに呟いた。
「だね。正直、実感はないけど」
黄三縞亜蓮が微笑みながら応える。最近、ますます表情が柔和になってきているようだ。そして手は常に自分の腹に添えられている。
出産予定日は五月下旬ということで、既に誤魔化しがきかないくらいに腹も大きくなってきていた。それに伴い、別に意図的に噂を流さずとも誰もが妊娠に気付いている状態だった。
だが学校側の懸命の働きかけにより大きな騒ぎにはなっていない。
もっとも、それには月城こよみによるちょっとした細工も影響していたのだが。月城こよみが、軽い認識阻害を常にかけているのである。それによって過度に反応することが抑えられているというわけだ。
さりとて、それでもなお『黄三縞亜蓮の腹の子の父親は肥土透』という噂は自然発生的に生じていたが。まあこれについては学校側としてももはや対処のしようもないので、あまり騒ぎにならないうちは黙認としているようではある。
「体の方は大丈夫か? 黄三縞」
黄三縞亜蓮との関係を取り沙汰されている肥土徹だったものの、本人はそんなことなどまるで意に介していなかった。むしろ、自分の子だと思われている方が好都合だとばかりに、慈愛に満ちた目で黄三縞亜蓮のことを見詰め、気遣う。
「うん。大丈夫だよ、肥土君」
二人は決して『付き合っている』わけではない。しかしその関係性はもはや<夫婦>と言ってもいいかもしれん。
そんな二人のことを月城こよみがどう思っているかと言えば、別に嫉妬しているだとかそんな様子はまるでなかった。
そうすることが当然であるかのように、三人でいつもつるみ、家族のように振る舞っている。
そう、<家族>なのだ。恋人とか夫婦とかという限られたそれでなく、三人で一つの家族を形成しているということだ。
まったく、大したものだよ。
と、こちらの三人はまあそれでいいとして、問題は赤島出姫織の方だった。
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ただ、<魔法使い>であるが故に、つまらんことに巻き込まれていることが多いようなのだ。
いや、巻き込まれていると言うか首を突っ込んでいると言うか。
『魔法は使わない』
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