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怨嗟の章
絶対的な存在
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見渡す限りを瓦礫の荒野に変えてしまう衝撃波を難なくやり過ごす<獣>と、それを従えたクォ=ヨ=ムイ。
およそ人間ではどうすることもできない、<絶対的な存在>。
それを前にしても、アリーネの闘志は萎えることはなかった。
ナイフを手に、切りかかる機会を狙う。
だが、そんなことがどれほど無駄なのかが、獣には分かってしまう。
分かるからこそ、無駄なことをはしてほしくなかった。せっかく助かった命を捨てるような真似はしてほしくなかった。
だからこそ……
『力の差を、見せ付けるしかないのか……』
獣は思った。
そうして、アリーネがナイフを突き出す暇も与えずに、その首に噛みついて、押し倒したのだった。
「Nooooooo!!」
まったく自分が反応もできないうちに気が付いたら首筋に食らいつかれて地面へと押し倒されたことを理解して、アリーネはついに恐怖した。
『Dead!?』
そう思う。これでもう自分は死ぬのだと彼女は悟った。
しかし―――――
しかし、彼女の首筋に食らいついた<黒い獣>は、それ以上、顎に力を入れなかった。まるで飼い犬が主人に甘噛みするかのように、そこには殺意が感じられない。
「What!?」
つい声を上げつつも、殆ど反射的に右手のナイフを獣に向かって突き立てようとする。
けれど、それは、獣の体に潜り込むことはなかった。切っ先がものすごく丈夫な硬いゴムを捉えたかのような感触があっただけで、それ以上はまったく進まない。
獣には確信があった。たとえ無抵抗でナイフに刺されても、自分は傷付くことさえないと。なにしろあの衝撃波の中でさえ、かすり傷一つなかったどころか、痛みすら感じなかったのだから。
そして、軽く、ほんの軽く、アリーネの首を捉えた顎に力を入れる。いや、力を入れてさえないのか。ただ僅かに動かしただけだ。
瞬間、獣の鼻にふわりと何かが臭ってきた。
おしっこの臭いだった。アリーネがおしっこを漏らしたのだ。
恐怖のあまり。
そんな醜態に、彼女は両手で顔を覆った。覆いながら、
「OhooooooNooooooo……!」
と声を上げながら泣いた。
アリーネが初めて見せた弱さだった。
すると獣はそっと彼女の首を捉えていた顎を外し、さらにそこをペロペロと舐めてみせた。
それこそ主人に甘える犬のように。
それでようやく、アリーネにも、その黒い獣に敵意がないことが伝わったようだった。
「Why……?」
問い掛けながら、自分を見詰める黒い獣の赤い目が、どこか悲し気な優しさを秘めていることも察したのだった。
およそ人間ではどうすることもできない、<絶対的な存在>。
それを前にしても、アリーネの闘志は萎えることはなかった。
ナイフを手に、切りかかる機会を狙う。
だが、そんなことがどれほど無駄なのかが、獣には分かってしまう。
分かるからこそ、無駄なことをはしてほしくなかった。せっかく助かった命を捨てるような真似はしてほしくなかった。
だからこそ……
『力の差を、見せ付けるしかないのか……』
獣は思った。
そうして、アリーネがナイフを突き出す暇も与えずに、その首に噛みついて、押し倒したのだった。
「Nooooooo!!」
まったく自分が反応もできないうちに気が付いたら首筋に食らいつかれて地面へと押し倒されたことを理解して、アリーネはついに恐怖した。
『Dead!?』
そう思う。これでもう自分は死ぬのだと彼女は悟った。
しかし―――――
しかし、彼女の首筋に食らいついた<黒い獣>は、それ以上、顎に力を入れなかった。まるで飼い犬が主人に甘噛みするかのように、そこには殺意が感じられない。
「What!?」
つい声を上げつつも、殆ど反射的に右手のナイフを獣に向かって突き立てようとする。
けれど、それは、獣の体に潜り込むことはなかった。切っ先がものすごく丈夫な硬いゴムを捉えたかのような感触があっただけで、それ以上はまったく進まない。
獣には確信があった。たとえ無抵抗でナイフに刺されても、自分は傷付くことさえないと。なにしろあの衝撃波の中でさえ、かすり傷一つなかったどころか、痛みすら感じなかったのだから。
そして、軽く、ほんの軽く、アリーネの首を捉えた顎に力を入れる。いや、力を入れてさえないのか。ただ僅かに動かしただけだ。
瞬間、獣の鼻にふわりと何かが臭ってきた。
おしっこの臭いだった。アリーネがおしっこを漏らしたのだ。
恐怖のあまり。
そんな醜態に、彼女は両手で顔を覆った。覆いながら、
「OhooooooNooooooo……!」
と声を上げながら泣いた。
アリーネが初めて見せた弱さだった。
すると獣はそっと彼女の首を捉えていた顎を外し、さらにそこをペロペロと舐めてみせた。
それこそ主人に甘える犬のように。
それでようやく、アリーネにも、その黒い獣に敵意がないことが伝わったようだった。
「Why……?」
問い掛けながら、自分を見詰める黒い獣の赤い目が、どこか悲し気な優しさを秘めていることも察したのだった。
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