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怨嗟の章
矜持
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本当に、錬治が拘ってることに対して、『こんな、人類が終わるかもしれない大変な時に何を言ってるんだ?』と馬鹿にする人間も多いだろう。
だけど、もしこれが上手くいけば、たぶん、誰もこんなことがあったと気付かないうちに終わるハズだった。
錬治は思う。
『……手遅れだった人達は、きっと何が起こったのかも分からずに、誰にもその真相を解き明かすこともできずに、無念の最期を遂げることになるんだろうな。そのことついては僕も残念でならない……
だけどそれは、クォ=ヨ=ムイが僕達をこういう世界に連れてきた時点で既に間に合わなかった事例だから、僕達にはどうすることもできなかったんだ……ごめん……』
でもそれさえ、何も伝わることはないんだと彼は分かっていた。
誰にも知られず、誰の記憶にも残らず、なのに誰かが食料や水や薬を盗んだという事実は確実に残る。そしてそれは、怪物の手によって引き起こされたことじゃなく、自分達がやったことだという現実が、心残りだった。
たくさんの人が訳も分からず亡くなった事実と、食料や水や薬が何者かによって盗まれたという事実を結び付けて考えることができる人もきっといない。
『でも、だからこそ、『大変な状況だったから仕方なかった』っていうのが証明できない以上は、やっぱりただの<窃盗>だと思うんだ……
そしてそれをエレーンさんやシェリーちゃんやみほちゃんの前で正当化する大人の姿を見せたくない。彼女達が大人になった時、『バレなきゃ悪いことしたって大丈夫』って考えるようになってしまわないようにって気を付けないといけないのが大人だと思うんだよ……
クォ=ヨ=ムイが約束を守って僕の癌を治してくれるかどうかは、分からない。彼女を信用することは、僕はできない。むしろ、『そんな約束した覚えもない』ととぼける姿の方が簡単に想像できる……
だからこそ僕は、自分に恥ずかしくない最期を迎えたいって気分なんだ。それがただの自己満足でもいい。誰にも伝わらないものでも、他の誰でもない僕自身が納得できればそれでいい……
だって死ぬのは他人じゃない。僕なんだから……』
正直、ヤケクソになって無茶苦茶したいっていう気持ちだった時期もあった。自分だけが死ぬのは嫌だから他人を道連れにしてやりたいとか、恨んでる相手に復讐をしてから死にたいと思ってた時期もある。
だけどもう、そこまで体が言うことを聞いてくれなかった。今となっては、エレーンどころかシェリーにだって勝てる気がしない。
ここまでくると、勝てそうな相手となったら、我儘放題になってしまいそうな自分自身しかいなかった。
こんな弱い自分にだけは負けたくないと、彼は思っていたのだった。
だけど、もしこれが上手くいけば、たぶん、誰もこんなことがあったと気付かないうちに終わるハズだった。
錬治は思う。
『……手遅れだった人達は、きっと何が起こったのかも分からずに、誰にもその真相を解き明かすこともできずに、無念の最期を遂げることになるんだろうな。そのことついては僕も残念でならない……
だけどそれは、クォ=ヨ=ムイが僕達をこういう世界に連れてきた時点で既に間に合わなかった事例だから、僕達にはどうすることもできなかったんだ……ごめん……』
でもそれさえ、何も伝わることはないんだと彼は分かっていた。
誰にも知られず、誰の記憶にも残らず、なのに誰かが食料や水や薬を盗んだという事実は確実に残る。そしてそれは、怪物の手によって引き起こされたことじゃなく、自分達がやったことだという現実が、心残りだった。
たくさんの人が訳も分からず亡くなった事実と、食料や水や薬が何者かによって盗まれたという事実を結び付けて考えることができる人もきっといない。
『でも、だからこそ、『大変な状況だったから仕方なかった』っていうのが証明できない以上は、やっぱりただの<窃盗>だと思うんだ……
そしてそれをエレーンさんやシェリーちゃんやみほちゃんの前で正当化する大人の姿を見せたくない。彼女達が大人になった時、『バレなきゃ悪いことしたって大丈夫』って考えるようになってしまわないようにって気を付けないといけないのが大人だと思うんだよ……
クォ=ヨ=ムイが約束を守って僕の癌を治してくれるかどうかは、分からない。彼女を信用することは、僕はできない。むしろ、『そんな約束した覚えもない』ととぼける姿の方が簡単に想像できる……
だからこそ僕は、自分に恥ずかしくない最期を迎えたいって気分なんだ。それがただの自己満足でもいい。誰にも伝わらないものでも、他の誰でもない僕自身が納得できればそれでいい……
だって死ぬのは他人じゃない。僕なんだから……』
正直、ヤケクソになって無茶苦茶したいっていう気持ちだった時期もあった。自分だけが死ぬのは嫌だから他人を道連れにしてやりたいとか、恨んでる相手に復讐をしてから死にたいと思ってた時期もある。
だけどもう、そこまで体が言うことを聞いてくれなかった。今となっては、エレーンどころかシェリーにだって勝てる気がしない。
ここまでくると、勝てそうな相手となったら、我儘放題になってしまいそうな自分自身しかいなかった。
こんな弱い自分にだけは負けたくないと、彼は思っていたのだった。
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