JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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怨嗟の章

普通の人間

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もう既にまともに仕事もできないからこそ生活保護を受けられるようになったくらいだから、正直、今の錬治にまともな行動がとれるはずがなかった。

液体タイプのバランス栄養食を口にするものの、それすら気分が悪くなって公園の茂みの中で吐いてしまった。吐瀉物の中に赤黒い塊が混じり、吐瀉物そのものが何とも言えない赤みを帯びている。

血だ。癌細胞に侵された胃壁から絶えず出血してる状態で、胃がロクに機能していない。

『クソ……どうすりゃいいんだ……』

そんな風に心の中で罵ってしまう錬治の背中を綾乃がさする。

吉佐倉よざくらさんには悪いけど、せっかく僕を奮い立たせようと諫めてもくれたけど、この現実を前にするとやっぱり心が折れそうになるな……

……ううん、折れる。この苦しさは、健康な人には分からない。

しかも、治る見込みがあって一時的に苦しいだけというのとは違う、回復する当ての無い、ただ死に向かっていくだけの苦しみだ。これで心が折れない人間なんて、よっぽど腹が据わり切ってるか、逆に心がぶっ壊れてるやつだけだろう。どっちにしても正気じゃないよ……

僕は、ただの弱い普通の人間だ。ちょっとしたことでイライラして頭に血が上って他人を恨んで妬んで憎んでしまう、その辺に当たり前にいるモブだ。どうして僕にこんな役目が回ってきたんだ……?

神様って奴は、本当にどこまで悪趣味なんだ。

……いや、それはあのクォ=ヨ=ムイを見てれば分かるのか……

あの、人を人とも思わない態度。冷血さ。傲慢さ。不遜さ。彼女にとっては人間なんて、それこそ、幼児がわざと踏み潰す蟻みたいなものでしかないんだろうな。

それ以下かもしれないけど……』

何度もえづき、涙と鼻水を垂れ流し、弱気になりながらも、

『でも、蟻だって生きてるんだ。踏み潰されるにしたってその足に噛み付こうとする気概は見せてやりたい……!』

と、自らを奮い立たせようとする。

けれど、それすら、彼の体を支配する苦痛と倦怠感の前には、塩を掛けられたナメクジのように萎んでいく。

今はもう、死の苦しみを和らげる為だけに処方される痛み止めだけが頼りだ。

もはや胃液なのか何なのか分からない粘液さえも吐き出ししてようやく少し落ち着いて、痛み止めを何とか飲み下し、ベンチに横になる。しばらくして、少しは薬が効いてきたのか、改めて液体タイプのバランス栄養食を何とか口にできた。

『これを、あと何回繰り返さなきゃいけないんだ……』

腕で覆ったその下で、涙が勝手に溢れてくる。

『死ぬ……僕は死ぬんだ……この苦しみがお前達に分かるか……? 今の僕を甘えてるという奴らは、同じ苦しみを味わってみろ。たとえ味わってもその後で生き延びたらそれはもう違うものになってる筈だ。

この苦しみの中で死んでいった人間だけが分かるそれだ』

彼は思う。

『他人の気持ちが分かる?

他人の痛みが分かる?

どの面下げてそんなこと言ってんだ……!』

……でも……
 
『でも、そうやって他人を責めずにはいられない自分がまた情けなくて泣けてくるんだよな……』

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