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怨嗟の章
余命宣告
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四十を目前に控えたある日、男は突然、余命三ヶ月の宣告を受けた。
癌だった。スキルス胃癌というやつで、進行が早く、既に胃壁を破って腹腔内に癌細胞がばらまかれ、転移も確認されてるということだった。
もう手術もできないと医師に告げられた。下手に触るとかえって進行を速めてしまう危険性があるらしい。
仕方なく、抗がん剤による治療に一縷の望みをかけることとなった。
効果が一番期待されるものからまず始めることになった。効果が表れる確率は五分と五分だったらしい。けれど彼にはその手のくじ運が昔からなく、案の定、効果が現れない方を引いてしまったようだ。
本当に、彼の人生は不運の連続だった。
中学の時に事故で両親を喪い、他に身寄りもなかった彼は施設で暮らすことになった。施設での暮らしは想像してたよりはずっと平穏で職員の人達にも優しくしてもらえたものの、自身の気持ちを本当に理解できる人はいないという想いがどうしても消えず、孤独は常について回った。
高校までは通わせてもらえて、卒業と共に就職。小さな印刷会社で働き始めた。しかし彼が就職して半年で倒産。それからはずっとアルバイトで食いつないできた。再就職を目指したが、施設出身だということを明かすと露骨に嫌な顔をされたのだ。
その上これとは……
六畳一間。風呂なしトイレ共同の安アパートの一室に戻って、彼は一人で泣いた。泣きつく相手もおらず一人で泣いた。
『僕はいったい、何の為に生まれてきたんだ……』
と思ってただただ泣いた。
一通り泣いて涙も枯れると、今度は腹が立ってきた。
神様とやらがこの世にいるのなら、どうしてこんなことをするのかと思って腹が立ってきた。
『僕は誰かを傷付けた覚えもないし苦しめた覚えもない。それなのにこの仕打ちは何なんだよ……!』
と、怒りが込み上げてきた。
けれどそれも長くは続かなかった。
余命三ヶ月と言われても、仕事はしないとその三ヶ月を待たずして飢えて死ぬ。だから仕方なくアルバイトには行った。
最初の抗がん剤は、聞いていたほどには副作用も出なかったことで、無理さえしなければ何とか仕事はできた。
しかし、癌の進行すら遅らせられなくなったということで次の抗がん剤に切り替えられた時には、聞いてた通りの副作用が出始めた。
吐き気が止まらず眩暈がして、髪もどんどん抜け始めた。仕事も続けられなくなったが、さすがに生活保護を受けることができて医療費の心配はなくなった。ただし、その代わりに保健医療の範囲内の治療しか受けられない。未承認の最新治療などは試せない。
とは言え、元々、そんな経済力もなかったため、最初から無理だったのだが……
余命宣告から二ヶ月余りが過ぎて、彼は病院のベッドの上にいた。体調が悪く、家にもいられなかったからだ。
そんな彼の前に、<それ>は現れた。
「私は、クォ=ヨ=ムイ。お前達が<神>とか呼ぶ存在だ。
でまあ、それはどうでもいいんだが、お前に残された時間はあと二百万秒。その二百万秒で世界を救ってみないか?」
その、軽口を叩く自称<神様>が、彼に残された時間を劇的に変えることになったのだった。
癌だった。スキルス胃癌というやつで、進行が早く、既に胃壁を破って腹腔内に癌細胞がばらまかれ、転移も確認されてるということだった。
もう手術もできないと医師に告げられた。下手に触るとかえって進行を速めてしまう危険性があるらしい。
仕方なく、抗がん剤による治療に一縷の望みをかけることとなった。
効果が一番期待されるものからまず始めることになった。効果が表れる確率は五分と五分だったらしい。けれど彼にはその手のくじ運が昔からなく、案の定、効果が現れない方を引いてしまったようだ。
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高校までは通わせてもらえて、卒業と共に就職。小さな印刷会社で働き始めた。しかし彼が就職して半年で倒産。それからはずっとアルバイトで食いつないできた。再就職を目指したが、施設出身だということを明かすと露骨に嫌な顔をされたのだ。
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『僕は誰かを傷付けた覚えもないし苦しめた覚えもない。それなのにこの仕打ちは何なんだよ……!』
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