280 / 562
三学期の章
保管場所
しおりを挟む
まあここが<別ルートの地球>かどうかは、実は大して問題ではない。私にとってはな。
人間ならそういう場合、
『どうすればいいんだ…?』
と呆然としたりということもあるだろうが、最悪、このままここで生きるのも私としては選択としてアリなのだ。
さりとて、ただ何もせずに諦めるというのも癪に障る。
という訳で、さらに探索を続けることにする。
ゴキブリの体にとっては広大といえるこの屋敷だが、それ故に快適でもある。人間にとって程よい気温に完璧に制御されているらしく、今の私にとってその点でも概ね快適だ。
ただ、閉められたドアが開けられない上に、やはり異様なほどの精度で作られたそれは、ゴキブリが通り抜けられるだけの隙間すらなく、順に部屋を見て回ろうとした私の邪魔をした。
明らかに高い気密性を意図した作りだ。部屋一つ一つがシェルターとして機能するようになっていると思われる。
「まったく。これでは話が盛り上がらんではないか……!」
誰に見せる訳でもないが、物語的な抑揚を確保できないことについて私は思わず愚痴を漏らした。
と、メタい話をしていても仕方ない。
とにかく把握できる部分だけでも把握に努めよう。
廊下を奔り抜け、さらに進む。
するとようやく、きちんと閉められずに隙間が開いたドアを見付けることができた。
「ここは……?」
それは物置と思しき部屋だった。今は使われていない、もしくは<予備>として備蓄されているのかもしれない家具や調度品及び、いわゆる<消え物>と称される消耗品の保管場所のようだ。
ただ、何やら慌ててそこに放り込んだのか、ロクに整頓もされていない様子だったがな。
ゴキブリにとっては身を潜めるに絶好の場所のようにも思えるが、先にも言ったようにやけに気密性の高い部屋の作りになっているから、ドアを閉められると逆に閉じ込められてしまう可能性も高い。
それは正直、好ましくない。
だが取り敢えずはもう少しゆっくりと確かめさせてもらおう。
雑然と置かれた物の隙間を通り抜け、奥へと進む。
すると、積み上げられた生活用品の陰に隠れるように、今度は石膏像や銅像、絵画といった美術品らしきものがやはり雑然と置かれているのが分かった。
しかもそれらは明らかに、本来なら美術館などで厳重に保管されているであろう名だたる作品ばかりだった。
いわゆる、<人類の財産>とか<世界の宝>とか言われるレベルのものだ。
ゴキブリの高性能な触角から得られる情報と私自身に蓄えられた知識が、それらが確かに<本物>であることを告げている。
「こんなところにこんな風に雑に保管されているということは、相当慌ててここに退避させた感じか。ふむ……」
人間ならそういう場合、
『どうすればいいんだ…?』
と呆然としたりということもあるだろうが、最悪、このままここで生きるのも私としては選択としてアリなのだ。
さりとて、ただ何もせずに諦めるというのも癪に障る。
という訳で、さらに探索を続けることにする。
ゴキブリの体にとっては広大といえるこの屋敷だが、それ故に快適でもある。人間にとって程よい気温に完璧に制御されているらしく、今の私にとってその点でも概ね快適だ。
ただ、閉められたドアが開けられない上に、やはり異様なほどの精度で作られたそれは、ゴキブリが通り抜けられるだけの隙間すらなく、順に部屋を見て回ろうとした私の邪魔をした。
明らかに高い気密性を意図した作りだ。部屋一つ一つがシェルターとして機能するようになっていると思われる。
「まったく。これでは話が盛り上がらんではないか……!」
誰に見せる訳でもないが、物語的な抑揚を確保できないことについて私は思わず愚痴を漏らした。
と、メタい話をしていても仕方ない。
とにかく把握できる部分だけでも把握に努めよう。
廊下を奔り抜け、さらに進む。
するとようやく、きちんと閉められずに隙間が開いたドアを見付けることができた。
「ここは……?」
それは物置と思しき部屋だった。今は使われていない、もしくは<予備>として備蓄されているのかもしれない家具や調度品及び、いわゆる<消え物>と称される消耗品の保管場所のようだ。
ただ、何やら慌ててそこに放り込んだのか、ロクに整頓もされていない様子だったがな。
ゴキブリにとっては身を潜めるに絶好の場所のようにも思えるが、先にも言ったようにやけに気密性の高い部屋の作りになっているから、ドアを閉められると逆に閉じ込められてしまう可能性も高い。
それは正直、好ましくない。
だが取り敢えずはもう少しゆっくりと確かめさせてもらおう。
雑然と置かれた物の隙間を通り抜け、奥へと進む。
すると、積み上げられた生活用品の陰に隠れるように、今度は石膏像や銅像、絵画といった美術品らしきものがやはり雑然と置かれているのが分かった。
しかもそれらは明らかに、本来なら美術館などで厳重に保管されているであろう名だたる作品ばかりだった。
いわゆる、<人類の財産>とか<世界の宝>とか言われるレベルのものだ。
ゴキブリの高性能な触角から得られる情報と私自身に蓄えられた知識が、それらが確かに<本物>であることを告げている。
「こんなところにこんな風に雑に保管されているということは、相当慌ててここに退避させた感じか。ふむ……」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
俺嫌な奴になります。
コトナガレ ガク
ホラー
俺は人間が嫌いだ
そんな青年がいた
人の認識で成り立つこの世界
人の認識の歪みにより生まれる怪異
そんな青年はある日その歪みに呑まれ
取り殺されそうになる。
だが怪異に対抗する少女に救われる。
彼女は旋律士 時雨
彼女は美しく、青年は心が一瞬で奪われてしまった。
人嫌いの青年が築き上げていた心の防壁など一瞬で崩れ去った。
でも青年はイケメンでも才能溢れる天才でも無い。
青年など彼女にとってモブに過ぎない。
だから青年は決意した。
いい人を演じるのを辞めて
彼女と一緒にいる為に『嫌な奴』になると。
人喰い遊園地
井藤 美樹
ホラー
ある行方不明の探偵事務所に、十二年前に行方不明になった子供の捜索依頼が舞い込んだ。
その行方不明事件は、探偵の間では前々から有名な案件だった。
あまりにも奇妙で、不可解な案件。
それ故、他の探偵事務所では引き受けたがらない。勿体ぶった理由で断られるのが常だ。断られ続けた依頼者が最後に頼ったのが、高坂巽が所長を務める探偵事務所だった。高坂はこの依頼を快く引き受ける。
依頼者の子供が姿を消した場所。
同じ場所で発生した二十三人の行方不明者。
彼らが姿を消した場所。そこは今、更地になっている。
嘗てそこには、遊園地があった。
遊園地の名前は〈桜ドリームパーク〉。
十年前まで、そこは夢に溢れた場所だった。
しかしある日を境に、夢に溢れたその場所は徐々に影がさしていく。
老若男女関係なく、二十三人もの人が、次々とその遊園地を最後に、忽然と姿を消したからだ。あらゆる方向性を考え懸命に捜索したが、手掛かり一つ発見されることなく、誰一人発見される事もなかった。
次々と人が消えて行く遊園地を、人々はいつしか【人喰い遊園地】と呼び恐れた。
閉園された今尚、人々はその遊園地に魅せられ足を踏み入れる。
肝試しと都市伝説を確かめに……。
そして、この案件を担当することになった新人探偵も。
新人探偵の神崎勇也が【人喰い遊園地】に関わった瞬間、闇が静かに蠢きだすーー。
誰もそれには気付かない……。
朝にも絶妙な野花(ちゃん)の怖い話を見守ろう
テキトーセイバー
ホラー
「彼女の怪異談シリーズ」と「にもない怖い話シリーズ」のコラボ作品であります。
注:野花ちゃんは作者のことではありません。
全8話予定してます。
表紙は生成AI
MARENOL(公式&考察から出来た空想の小説)
ルーンテトラ
ホラー
どうも皆さんこんにちは!
初投稿になります、ルーンテトラは。
今回は私の好きな曲、メアノールを参考に、小説を書かせていただきました(๑¯ㅁ¯๑)
メアノール、なんだろうと思って本家見ようと思ったそこの貴方!
メアノールは年齢制限が運営から付けられていませんが(今は2019/11/11)
公式さんからはRー18Gと描かれておりましたので見る際は十分御気をつけてください( ˘ω˘ )
それでは、ご自由に閲覧くださいませ。
需要があればその後のリザちゃんの行動小説描きますよ(* 'ᵕ' )
性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話
タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。
金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。
『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』
飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。
「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。
それは『バーで24時間働け』というもので……?
君の魂は砂糖のように甘すぎる ~"Your Soul,Too Sweet like Sugar"~
希依
ホラー
あなたのことを許さない。怪物に喰われ続ける私を見捨てたのだから。
あの頃、僕たちのすぐ隣で暗闇は生きていた。悪意を持てない少年メロスと暗闇に喰われ続ける少女かふかの懐かしくて哀しいジュブナイルホラー。
5月の連休初日。メロスが部屋で起きると母親は失踪していた。母の遺した一万円札を持ってモール型ショッピングセンターに行くと学校一の嫌われ者である永井かふかがクラスメイトにいじめられる場面に遭遇する。メロスはこっそりとかふかを助けるが、逆にかふかに逆恨みされ善意をつけこまれる。メロスにはかふかに決して逆らえない負い目があった…。
「メロスはかふかを見捨てた。かふかはメロスに殺されたの」
その夜、アパートのベランダで永井かふかが暗闇の怪物に生きたまま喰われるのをメロスは見る。それはまるで夕暮れの校舎で少女を見捨てたときと同じように―――。
ちょうど同じころ、モール型ショッピングセンターで幼児失踪事件が起きていた。かふかが言うにはその事件にはかふかを喰らっていたクラヤミの怪物、晦虫が絡んでいるという。
晦虫は人の悪意を喰らう。ショッピングセンターの奥に捕らわれた少女の絶望を美味そうに食べているが、もうじきその絶望の灯も消えるのだと。
少年は耳たぶを報酬に晦虫の毒である少女の助けを得ると、晦虫に捕らわれた女の子を助けに深夜のショッピングモールに潜入するのであった。そこで少年と少女が見たのは大人の悪意に寄生した晦虫の群れと巨大な晦虫の王、そして、■■の裏切り―――。
ヒトの悪意は怪物にとって蜜の味、じゃあ、ヒトの善意はどんな味?
※本作品はホラーです。性的描写、身体欠損など猟奇的描写はできるだけ抑えめにしていますが、人によっては不快と感じる描写が多数あります。ホラー、サイコサスペンスが苦手な方はご注意してお読みください。
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる