276 / 562
三学期の章
開けられない
しおりを挟む
ようやく私の存在に気付いた小娘の前で、私はじりじりとにじり寄る仕草を見せた。人間の小娘であればこれで十分、パニックを起こし逃げ惑うはずだ。
案の定、小娘も、
「ひ…っ。ひぃ……!」
などと声を詰まらせながら、身をよじって下がろうとする。
だが、肝心の、ドアを開けて部屋から逃げ出そうとする様子は見られない。
あまりの状況に思考停止の状態になり、思い付かないのかもしれないな。
両足は膝を含めた先がなく、両手は後ろ手に拘束されてまともに動くこともできないことも、パニックに拍車をかけているのかも知れん。
ドアに向かうのではなく、ただ部屋の中を這いずって逃げるだけだ。
やれやれ、これでは意味がない。
なので私は、小娘をドアの方へと誘導するべく、位置取りをした。
そうしてようやく、ドアの前へと追い詰めることができた。
小娘の方も、男がこの部屋におらず、ドアを目の前にしたことでやっと、
「逃げなきゃ…!」
と口に漏らすまでになった。
が、両足がそのような状態では立ち上がることもできず、しかも両手を後ろ手に拘束されていてはドアのノブに手が届かない。
両足については完全に傷口が塞がっていて、とても昨日今日切り落とされたようには見えなかった。
だが小娘はその足で立ち上がることは嫌なのか、
「ダメ…開けられない……!」
などと早々に値を上げる始末だ、
見ると、両足だけでなく両手も既になくなっていた。足の衝撃が大きすぎて気づかないらしい。
マズイな。これではドアが開けられん。そんな状態でも工夫次第では開けられる筈だが、両手両足を失った小娘にはそんなことも思い付けんか。
と諦めかけてた私の目の前で、小娘がどうにかドアを開けようと、ドアノブを自分の肩と頬の間に挟み、それを回そうとした。
しかし、外に向かって押すタイプならまだしも、内側に向かって開くそれだった為にそういうことがやすやすとできてしまう訳もなく、
「ひ…ひ……ひい……!」
と声を漏らしながらドアに縋りつくのが精一杯だった。
それでもまあ、思った通りに動いてくれているのだから感謝してやった方がいいのだろうか。
などと考えている暇もない。
早く開けてもらわなければ、こっちは脱出もままならん。
「なんで…なんでえ……」
泣き言を繰り返しながらドアノブを弄りたおす様子に、私はただ呆れるしかできないでいた。
『焦ればそれこそうまくいかないぞ』
そう言ってやりたかったものの、やはりそれは言葉にはならず、小娘が泣きそうになりながら続けるのを見ているしかできなかったのだった。
案の定、小娘も、
「ひ…っ。ひぃ……!」
などと声を詰まらせながら、身をよじって下がろうとする。
だが、肝心の、ドアを開けて部屋から逃げ出そうとする様子は見られない。
あまりの状況に思考停止の状態になり、思い付かないのかもしれないな。
両足は膝を含めた先がなく、両手は後ろ手に拘束されてまともに動くこともできないことも、パニックに拍車をかけているのかも知れん。
ドアに向かうのではなく、ただ部屋の中を這いずって逃げるだけだ。
やれやれ、これでは意味がない。
なので私は、小娘をドアの方へと誘導するべく、位置取りをした。
そうしてようやく、ドアの前へと追い詰めることができた。
小娘の方も、男がこの部屋におらず、ドアを目の前にしたことでやっと、
「逃げなきゃ…!」
と口に漏らすまでになった。
が、両足がそのような状態では立ち上がることもできず、しかも両手を後ろ手に拘束されていてはドアのノブに手が届かない。
両足については完全に傷口が塞がっていて、とても昨日今日切り落とされたようには見えなかった。
だが小娘はその足で立ち上がることは嫌なのか、
「ダメ…開けられない……!」
などと早々に値を上げる始末だ、
見ると、両足だけでなく両手も既になくなっていた。足の衝撃が大きすぎて気づかないらしい。
マズイな。これではドアが開けられん。そんな状態でも工夫次第では開けられる筈だが、両手両足を失った小娘にはそんなことも思い付けんか。
と諦めかけてた私の目の前で、小娘がどうにかドアを開けようと、ドアノブを自分の肩と頬の間に挟み、それを回そうとした。
しかし、外に向かって押すタイプならまだしも、内側に向かって開くそれだった為にそういうことがやすやすとできてしまう訳もなく、
「ひ…ひ……ひい……!」
と声を漏らしながらドアに縋りつくのが精一杯だった。
それでもまあ、思った通りに動いてくれているのだから感謝してやった方がいいのだろうか。
などと考えている暇もない。
早く開けてもらわなければ、こっちは脱出もままならん。
「なんで…なんでえ……」
泣き言を繰り返しながらドアノブを弄りたおす様子に、私はただ呆れるしかできないでいた。
『焦ればそれこそうまくいかないぞ』
そう言ってやりたかったものの、やはりそれは言葉にはならず、小娘が泣きそうになりながら続けるのを見ているしかできなかったのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
浦町ニュータウン~血塗られた怪異~
如月 幽吏
ホラー
浦町ニュータウンで起きる怪異。
それはその土地に関係しているという―――
《第一部》
美湖の様子がおかしい。
そして、両親は美湖を心配するが、それは、美湖ではなく、佳代子だった。
明かされる佳代子と霧島の過去ーー
《第二部》
美湖の死後今度は友人の汐梨がーーー。
更新中!!
日報受取人
智天斗
ホラー
私はある会社で働く社員。
これは、ある男の日報。それをここに書き写します。毎日18時に届く謎の日報。嘘か誠か、それすらも分からない。
ある男が体験した不思議で少し不気味な話の数々。
これを書いた本人とは会ったことはないですが、彼はきっと今もどこかで日報を書いている。
僕はこの仕事を続ける、その日報が届き続ける限り。
短い話となりますのでサクッと見れます。良ければ読んでください。
日報が届き次第、こちらに記載を予定しております。
日報の文面についてこちらで解釈し、添削を加えております。一部表現につきまして、○○などで表現する場合がございます。ご了承ください。
ほぼ毎日18時投稿予定
短編として、登場人物の体験談を掲載しておりますのでよければ見てください。
フィクションです。それを承知の上ご堪能ください。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
Cウイルス・クロニクル
ムービーマスター
ホラー
202X年、東京駅の超高層タワービルの最上階オフィスで、男がアイソレーション・タンク(感覚遮断タンク)の中で目覚め、無感覚でパニック状態ながら脱出した外界は?Cウイルス(カニバリズム幻覚症候群ウイルス)によって東京首都から日本全国に、そして世界までも爆発的なパンデミックが覆い始め21世紀の現代文明が崩壊し始めるようとしていた・・・。
目覚めた男は一体誰なのか?Cウイルスとは何なのか?東京発?で発生したパンデミックは世界に感染を広げ、どうなるのか?
人喰い遊園地
井藤 美樹
ホラー
ある行方不明の探偵事務所に、十二年前に行方不明になった子供の捜索依頼が舞い込んだ。
その行方不明事件は、探偵の間では前々から有名な案件だった。
あまりにも奇妙で、不可解な案件。
それ故、他の探偵事務所では引き受けたがらない。勿体ぶった理由で断られるのが常だ。断られ続けた依頼者が最後に頼ったのが、高坂巽が所長を務める探偵事務所だった。高坂はこの依頼を快く引き受ける。
依頼者の子供が姿を消した場所。
同じ場所で発生した二十三人の行方不明者。
彼らが姿を消した場所。そこは今、更地になっている。
嘗てそこには、遊園地があった。
遊園地の名前は〈桜ドリームパーク〉。
十年前まで、そこは夢に溢れた場所だった。
しかしある日を境に、夢に溢れたその場所は徐々に影がさしていく。
老若男女関係なく、二十三人もの人が、次々とその遊園地を最後に、忽然と姿を消したからだ。あらゆる方向性を考え懸命に捜索したが、手掛かり一つ発見されることなく、誰一人発見される事もなかった。
次々と人が消えて行く遊園地を、人々はいつしか【人喰い遊園地】と呼び恐れた。
閉園された今尚、人々はその遊園地に魅せられ足を踏み入れる。
肝試しと都市伝説を確かめに……。
そして、この案件を担当することになった新人探偵も。
新人探偵の神崎勇也が【人喰い遊園地】に関わった瞬間、闇が静かに蠢きだすーー。
誰もそれには気付かない……。
合同会社再生屋
倉木元貴
ホラー
初めまして。私は合同会社再生屋の尾形祐太郎と申します。私どもは、未練を残したまま死んでしまった貴方に、人生をやり直すチャンスをお与えします。2回目の人生をどうぞお好きにお過ごしください。最後になりますが、我々への報酬は金銭ではございません。貴方様の記憶でございます。記憶を消したりするのではないのでご安心ください。
人生やり直してみませんか?
朝にも絶妙な野花(ちゃん)の怖い話を見守ろう
テキトーセイバー
ホラー
「彼女の怪異談シリーズ」と「にもない怖い話シリーズ」のコラボ作品であります。
注:野花ちゃんは作者のことではありません。
全8話予定してます。
表紙は生成AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる