JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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三学期の章

みみっちい嫌がらせ

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日守こよみとしての私の体はおそらくゴキブリが自身の体として認識してるだろうが、たぶん、動くこともままならず、他人からはただ寝てるだけに見えているだろうな。

生命維持については、どうやら表層的な意識とは別に、きちんと制御されているようだ。そこまではすり替えられていないらしい。実際、私も別に意識してこのゴキブリの体の生命活動を維持している訳ではない。

万が一、日守こよみとしての体が死んでいたりすると、いささか困ったことにもなりかねんが。

なにしろ、人間の体の意識に引っ張られることで、人間としてのメンタリティを発揮することもできているのだから、それがなくなると、<本当のクォ=ヨ=ムイ>としての私に戻ってしまい、腹いせに何もかもを、地球どころか現在のこの宇宙そのものを消し去ってしまいかねないのだ。

私達はそういう存在である。

が、その点についても、今のところは大丈夫なようだ。それもまた、私がこうしていまだにゴキブリであることがその証拠だろう。日守こよみとしての体が死んでしまえばその頸木から解き放たれた私が大人しくしている訳がない。

この世界が地球であるなら地球ごと、もし地球とは別の惑星や、別の時空の地球であったなら、それこそ宇宙ごと消し去ってしまってる可能性が高いからな。

こうやって認識をすり替えることができる奴にはいくつか心当たりがある。下賤の輩にもそれができるのもいるし、私クラスの存在だとそれこそほとんどの奴がこの程度の芸当はできてしまう。

その中には無論、ショ=クォ=ヨ=ムイも含まれる。奴の嫌がらせである可能性もあるということだ。

非常にみみっちい嫌がらせだが、奴は他ならぬ私自身なのだ。性格の悪さは折り紙付きである。

だがそれについても、今はどうでもいい。

「貴様あっ!! 虫けらの分際で!!」

必殺の一撃を難なく躱されたことで、男はさらに頭に血を上らせたようだ。今度はナイフの方を投げつけてくる。

当然、私はそれさえ易々と躱してみせる。

男はそれこそ怒り心頭といった様子で席を立ち、どかどかと大股で歩いて部屋を出ていってしまった。

まああの様子だと、殺虫剤か何かを取りに行った感じだろうか。

点の攻撃では躱されると理解して、<毒ガス>によって空間そのものを武器に換えてしまうつもりだな。

そうなるといかに早く動けたところで一巻の終わりだな。噴霧される空間が限定的なスプレー式のものなら影響の範囲外まで逃げればいいにせよ、部屋全体にガスを噴霧するタイプのものだと、この部屋そのものから脱出する必要がある。

さて、どうするか……

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