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三学期の章
新部長
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三学期に入ると、三年生はいよいよ進学等の準備で忙しくなる。
そんな最中、代田真登美と玖島楓恋は無事に同じ高校に進学が決まり、その日は自然科学部で小さなお祝いのパーティーをすることとなった。
「おめでとうございます!」
月城こよみが代表となり、二人に対して祝辞を述べる。夏休み前くらいにはいろいろとクラブ活動に対するモチベーションが下がったりもしたが、こうして振り返ってみると何だかんだと充実した毎日ではあっただろう。決して悪くはなかったと思う。
それぞれ小さな花束が贈呈され、玖島楓恋は感極まって涙さえ溢れさせた。しかし代田真登美は毅然と振る舞い、部員達を見渡した。
「力不足を常に感じる頼りない部長でしたが、みなさんのおかげで充実したクラブ活動が行えたと感じています。社会的にはあまり認められることのない活動だとしても、ここでの経験は私にとってとても大切な一部となっています。これからもここでの日々を心の支えにして、努力を続けていきたいと思います。みなさん、本当にありがとうございました」
それは、後輩達への激励ではなく、自らの感謝の気持ちを表した言葉だった。代田真登美にとって彼らは、自分が導き尻を叩いてやらなければ何もできない頼りない半人前ではなく、共に歩んだ仲間だったということだろう。そんなに大袈裟な活動内容ではなくても、自分が充実したと感じていればそれは十分に意味のある時間だったのだ。
子供っぽい空想に囚われていたのは事実かも知れん。さりとてここで過ごした時間は嘘ではない。こいつらにとっては確かに大切なひとときであったのも間違いない。
その答辞を最後に、代田真登美と玖島楓恋は自然科学部を引退となった。もちろんこれからも部室に顔を出すことはある。しかし、部員としての活動はこれで終わりだということだ。
そしてそれは、新しい部長が生まれるということでもあった。
「それでは、新部長からの挨拶です。どうぞ!」
と月城こよみが言うと、照れ臭そうに頬を染めながらおずおずと立ち上がったのは、山下沙奈であった。代田真登美からの直々の指名と部員達全員一致の意見でそう決まったのだ。
だがそれは、厄介事を押し付けたということでは決してなかった。名目上の新部長は山下沙奈だったが、部員全員が彼女に協力し、力を出し合い、クラブを支える上での神輿ということで、彼女に白羽の矢が立ったということだ。確かに、月城こよみではそういう意味での神輿には向かない。こいつが部長などすれば、ぐうたらのダラダラクラブに成り下がるのは火を見るより明らかだな。
それに比べて山下沙奈は、私の家に集まる、クセが強くて身勝手で協調性の欠片も無いような連中全員に目を配り気を配り、いつでも美味しい料理とお茶とケーキを提供してくれた。その点で言えば月城こよみの気の利かなさは実に情けないの一言に尽きる。
しかしそんな月城こよみでも、山下沙奈を支える為ならば意欲を見せてくれる。他の部員達もそうだ。肥土透もそうだし、貴志騨一成でさえ異存はなかった。山下沙奈の指示なら従ってもよいと思っていたのだった。
そんな最中、代田真登美と玖島楓恋は無事に同じ高校に進学が決まり、その日は自然科学部で小さなお祝いのパーティーをすることとなった。
「おめでとうございます!」
月城こよみが代表となり、二人に対して祝辞を述べる。夏休み前くらいにはいろいろとクラブ活動に対するモチベーションが下がったりもしたが、こうして振り返ってみると何だかんだと充実した毎日ではあっただろう。決して悪くはなかったと思う。
それぞれ小さな花束が贈呈され、玖島楓恋は感極まって涙さえ溢れさせた。しかし代田真登美は毅然と振る舞い、部員達を見渡した。
「力不足を常に感じる頼りない部長でしたが、みなさんのおかげで充実したクラブ活動が行えたと感じています。社会的にはあまり認められることのない活動だとしても、ここでの経験は私にとってとても大切な一部となっています。これからもここでの日々を心の支えにして、努力を続けていきたいと思います。みなさん、本当にありがとうございました」
それは、後輩達への激励ではなく、自らの感謝の気持ちを表した言葉だった。代田真登美にとって彼らは、自分が導き尻を叩いてやらなければ何もできない頼りない半人前ではなく、共に歩んだ仲間だったということだろう。そんなに大袈裟な活動内容ではなくても、自分が充実したと感じていればそれは十分に意味のある時間だったのだ。
子供っぽい空想に囚われていたのは事実かも知れん。さりとてここで過ごした時間は嘘ではない。こいつらにとっては確かに大切なひとときであったのも間違いない。
その答辞を最後に、代田真登美と玖島楓恋は自然科学部を引退となった。もちろんこれからも部室に顔を出すことはある。しかし、部員としての活動はこれで終わりだということだ。
そしてそれは、新しい部長が生まれるということでもあった。
「それでは、新部長からの挨拶です。どうぞ!」
と月城こよみが言うと、照れ臭そうに頬を染めながらおずおずと立ち上がったのは、山下沙奈であった。代田真登美からの直々の指名と部員達全員一致の意見でそう決まったのだ。
だがそれは、厄介事を押し付けたということでは決してなかった。名目上の新部長は山下沙奈だったが、部員全員が彼女に協力し、力を出し合い、クラブを支える上での神輿ということで、彼女に白羽の矢が立ったということだ。確かに、月城こよみではそういう意味での神輿には向かない。こいつが部長などすれば、ぐうたらのダラダラクラブに成り下がるのは火を見るより明らかだな。
それに比べて山下沙奈は、私の家に集まる、クセが強くて身勝手で協調性の欠片も無いような連中全員に目を配り気を配り、いつでも美味しい料理とお茶とケーキを提供してくれた。その点で言えば月城こよみの気の利かなさは実に情けないの一言に尽きる。
しかしそんな月城こよみでも、山下沙奈を支える為ならば意欲を見せてくれる。他の部員達もそうだ。肥土透もそうだし、貴志騨一成でさえ異存はなかった。山下沙奈の指示なら従ってもよいと思っていたのだった。
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