JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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冬休みの章

新しい年

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月城こよみは手を合わせた後、

「何かお願いした?」

とか訊いてきおったから、

「私が何をお願いするというのだ? 長寿か?」

と訊き返してやったら、

「それは笑えないね」

と返してきた。

「沙奈ちゃんは、何かお願いした?」

今度は碧空寺由紀嘉へきくうじゆきかが山下沙奈に問い掛ける。それに対して山下沙奈は、

「内緒です…」

などと少し顔を赤らめて誤魔化した。その言い方ではあまり内緒になってない気もするがまあいいだろう。その時、不意に声が掛けられた。

「みんなも来てたんだね」

声の方に振り返ると、そこには代田真登美しろたまとみ玖島楓恋くじまかれん、そして貴志騨一成きしだかずしげの三人の姿があった。しかも、玖島楓恋と貴志騨一成の距離が妙に近い。これではまるで、カップルとそれについてきた友人の様ではないか。

「明けましておめでとうございます」

「おめでとうございます」

それぞれ新年の挨拶を交わし、私達は山下沙奈が作った雑煮を食うべく帰路に就く。その途中、碧空寺由紀嘉が言い出した。

「さっきの、自然科学部の部長さんと副部長さんと、四組の貴志騨くんだよね? 貴志騨くん、なんか雰囲気変わってない?」

その言葉に、赤島出姫織と黄三縞亜蓮が、

「言われてみれば…」

と同調する。

確かに、碧空寺由紀嘉が言ったことももっともだろう。

以前のようなぬめっとした絡みつくような視線がやけに落ち着いたものになり、体形を含めた見た目こそは変わっていないが、全体から受ける印象が、特に表情がどこか引き締まったあっさりとした感じにもなっていた。

だから、代田真登美や玖島楓恋と一緒にいてもそれほど異様でもなかった。以前は正直言って、代田真登美や玖島楓恋を見る目が不気味だったのだ。

まああいつも、いろいろと特殊な経験をしてきたからな。しかも化生共を相手にまあまあいい勝負もする。それがある種の自信になり、精神的な余裕をもたらしたのかも知れん。平たく言えば、<戦う男のかおになった>とでも言うべきか。それは悪いことでもあるまい。

そうだ。奴もこいつらと同じように変わったのだ。普通の人間ではなくなったというのも大きな変化ではあるが、それ以上にやはり人間的な意味で変わったのである。器が大きくなったという感じかもしれんな。

黄三縞亜蓮に至ってはもう妊娠五ヶ月目だ。明らかに胸周りと腰回りのボリュームが増えてきているのが分かる。妊婦としての変化が始まったのだろう。

知らなければただ太っただけにも見えるかも知れんが、そうではない。順調に胎児が育ってきているということだ。

カハ=レルゼルブゥアに憑かれているが故のトラブルも、大きなものは別段ない。ますます食欲が普通ではなくなってきている程度だ。だからこうして歩いている間にもずっと何かを食べている。それでも順調であるなら、それはそれで結構な話だ。



と、そんなこんなで、結局、自然科学部でまだただの人間なのは部長の代田真登美だけとなってしまったのだった。

などと思っていたら、新学期早々、一年の男子が三名、入部したいと言って自然科学部の部室に現れおったりしたのだがな。

代田真登美の努力が実ったというのもあるにせよ、どうやらこいつら、山下沙奈が目当てらしい。確かに愛らしくなったからな。

しかし、男共が放っておかんのも分かるが、前髪を長く伸ばしていた頃には有名なホラー映画の怨霊の名をあてがって<サナコ>などとあだ名していたクセに現金な奴らだ。

それでも、卒業を控えた代田真登美と玖島楓恋にとっては喜ばしいことであり、こうして自然科学部は期せずして十一名(幽霊部員含む)というまあまあな数の部員を抱えるクラブになっていったのだった。

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