JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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冬休みの章

力が望む形

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<木刀を手にした中年サラリーマン風の男>は、元より正義や人道や善意を基に行動している訳ではなかった。

男の行動原理はあくまで自分本位。自身の異能の力をどこまで高められるのかそれを知ることが目的だった。

裏を返せばそれ以外にない。赤の他人が何人死のうが知ったことではないのだろう。

ただ、だからと言って化生に襲われている人間を見捨てるようなことをしていては、顰蹙を買って疎まれる。そうすると自分の力を極める点においても足を引っ張られることにもなりかねない。

下手をすると、他の能力者に<敵認定>され、攻撃を受けたりすることもあり得る。

敵対されることは別に恐ろしくもないが、足を引っ張られるのは望まない。なにしろ、能力者の中には、他者の能力を封じてしまうタイプのものも存在するのだ。

男はあくまで、闘いに依って自身の能力を研ぎ澄まし高めることを望んでいるので、封印などされてしまってはそれこそ敵わない。

それほどまでに利己的で自己中心的ではあるものの、それだけに、

『人間と敵対するのは損だ』

と徹底的に割り切っていることもあり、実は危険な存在となる可能性は低くもあった。

とは言え、化生を狩るのは決して人間の為ではないということもまた事実なので、大目に見てもらえる程度であれば、犠牲や被害が出ようともまるで気にしないというのもまた、事実であった。

だから男は、きわめて冷徹に化生を狩る。そして自分の手に負えないと悟ればあっさりと諦める。

以前の、クォ=ヨ=ムイと対峙した時のように。

だがそれでも、『自分の手には負えない』と判断するまでは決して諦めることもない。

この時の男がそうだった。

手強いのは確かだし、今のままでは攻め切れないのも事実だ。しかし、『手に負えない』とまではまだ断定できない。

男は自身の体の中を奔る<力>の形を改めて見極め、それをどう再構成すればこの状況を打破できるのかを、頭ではなく己を支えている<力そのもの>で思案した。

<力>が自ら答えを導き出すのだ。

その為にも、呼吸を整え、精神を安定させた上で研ぎ澄まし、力が自ら答えを導き出す邪魔をさせない。

「……!」

すると、突然、男の体の中で何かがカチリと組み合わさる気配がした。

瞬間、男は己の力のすべてをその組み合わさった部分へと集約させ、力そのものが望む形へと流れを導いた。

するとまったくの無意識のうちに手にした木刀が円を描き、その切っ先が空間そのものを切り裂くかのように目に見えない力が激しく渦を巻いたのであった。

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