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魔法使いの章
紫崎麗美阿 その4
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その噂は、結構な広がりを見せていた。多くの生徒が千晶という女子生徒のことを、<中学生と不倫をしている父親の娘>という目で見た。だが、当の千晶はまるで平然としていた。そんな噂などどこ吹く風という感じで。
それよりも、千晶の父親と不倫をしていると噂を流された女子生徒のダメージが大きかったようだった。しかし、その女子生徒は千晶の友人でもあったこともあり、千晶もそのことについては心を痛めている様子が見えた。
こうして、間接的にとはいえ千晶を痛めつけることができて、麗美阿《れみあ》は、
「は…っ! ザマアミロ!」
と、ほんの少しだが溜飲が下がるのを感じていた。
けれど、そんなことをしていれば、当然、怒りも買う。麗美阿は、最も怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったのだ。
それは、千晶や、千晶の父親と不倫していると噂されている女子生徒の友人であった。この学校の教師よりも誰よりも、敵に回してはいけない人物だった。
目先の苛立ちや不平不満で深く考えずに他人を攻撃すると、思わぬしっぺ返しを食うという典型とも言えるだろう。
ある日の放課後、友人と他愛ないおしゃべりを楽しんだ後に帰宅しようとしていた麗美阿は、突然、自分の目の前の光景が有り得ない変化を見せたことに戸惑っていた。
「…え? なに…? なんで…?」
無意識にそう声が漏れてしまう。無理もない。何しろ、さっきまで、日は傾いてはいたがまだ十分に明るかった筈の校舎内が完全な闇に包まれていたのだから。明らかに深夜の校舎内の光景だった。
それだけではない。いくら周りを見回そうと誰もおらず、人の気配どころか遠くの喧騒すら届いてこない。まるで世界に自分一人が取り残されたかのようであった。
夜の校舎というのは独特の不気味さがあるものだが、この時のそれは特に異様だっただろう。
あまりの状況に、麗美阿は体の芯から怯えた。腰を抜かしてその場に座り込んでもおかしくないほどに。
「……!?」
更に何かの気配を感じたように振り返った麗美阿の視線の先には、いつの間にか一人の女子生徒が立っていた。
腰まで伸ばした髪を後ろで編んだ、冷たい目をした女子生徒が闇の中から麗美阿を見詰めていた。
「…ひっ……!!」
息を詰まらせ、体が竦み、遂に耐え切れなくなって麗美阿は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。その腰の辺りから液体が広がっていく。派手に小便を漏らしてしまったのだ。
自分を見詰めるその女子生徒の貌が、およそこの世のものとは思えない恐ろしいものであったからだった。
それが果たして現実であったのかどうか、麗美阿には分からなかった。
ただその日以来、彼女は人が変わったように大人しくなり、悪趣味な噂を流すこともしなくなったのである。
自分のやったことが結局は自分に返ってくるのだと気付いてくれたのなら良いのだけれど……
それよりも、千晶の父親と不倫をしていると噂を流された女子生徒のダメージが大きかったようだった。しかし、その女子生徒は千晶の友人でもあったこともあり、千晶もそのことについては心を痛めている様子が見えた。
こうして、間接的にとはいえ千晶を痛めつけることができて、麗美阿《れみあ》は、
「は…っ! ザマアミロ!」
と、ほんの少しだが溜飲が下がるのを感じていた。
けれど、そんなことをしていれば、当然、怒りも買う。麗美阿は、最も怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったのだ。
それは、千晶や、千晶の父親と不倫していると噂されている女子生徒の友人であった。この学校の教師よりも誰よりも、敵に回してはいけない人物だった。
目先の苛立ちや不平不満で深く考えずに他人を攻撃すると、思わぬしっぺ返しを食うという典型とも言えるだろう。
ある日の放課後、友人と他愛ないおしゃべりを楽しんだ後に帰宅しようとしていた麗美阿は、突然、自分の目の前の光景が有り得ない変化を見せたことに戸惑っていた。
「…え? なに…? なんで…?」
無意識にそう声が漏れてしまう。無理もない。何しろ、さっきまで、日は傾いてはいたがまだ十分に明るかった筈の校舎内が完全な闇に包まれていたのだから。明らかに深夜の校舎内の光景だった。
それだけではない。いくら周りを見回そうと誰もおらず、人の気配どころか遠くの喧騒すら届いてこない。まるで世界に自分一人が取り残されたかのようであった。
夜の校舎というのは独特の不気味さがあるものだが、この時のそれは特に異様だっただろう。
あまりの状況に、麗美阿は体の芯から怯えた。腰を抜かしてその場に座り込んでもおかしくないほどに。
「……!?」
更に何かの気配を感じたように振り返った麗美阿の視線の先には、いつの間にか一人の女子生徒が立っていた。
腰まで伸ばした髪を後ろで編んだ、冷たい目をした女子生徒が闇の中から麗美阿を見詰めていた。
「…ひっ……!!」
息を詰まらせ、体が竦み、遂に耐え切れなくなって麗美阿は腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。その腰の辺りから液体が広がっていく。派手に小便を漏らしてしまったのだ。
自分を見詰めるその女子生徒の貌が、およそこの世のものとは思えない恐ろしいものであったからだった。
それが果たして現実であったのかどうか、麗美阿には分からなかった。
ただその日以来、彼女は人が変わったように大人しくなり、悪趣味な噂を流すこともしなくなったのである。
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