JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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日守こよみの章

刑事の疑念

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今川いまかわさん、そんなに落ち込まないでくださいよ。人間だから見間違いとかもありますって」

捜査一課の部屋で、広田ひろたが憮然とした表情の今川に声を掛けていた。相変わらずの的外れなその物言いに、頭を抱えたくなるのをこらえながら今川は応えた。

「お前みたいなお気楽な性格の奴が羨ましいよ」

今川が考えていたのは、当然、昨日の件だった。あの後、若い女の声で逃走した白いワンボックスカーが乗り捨てられた場所や、ワンボックスカーの脇に倒れていた男が拉致監禁の容疑者の一人であると通報が入った為、捕らえられていた少女が何らかの理由で自力で脱出し、通報したのだと思われていた。しかも任意同行を求めたワンボックスカー脇に倒れていた男はあっさりと拉致については容疑を認め、一緒にいた男達のこともすぐに自供し、既に三人が逮捕されている。残りもじきに見付かるだろう。

だがそいつらは、確かにあの時、ワンボックスカー脇に倒れていた男が少女を道路に放り出したと供述した。しかし、少女を放り出したと言われてた男本人はそれを否定。自分はただ遊びに行くからついて来いと言われただけで何もしていないと供述した。その男の事情聴取を行ったのは今川と広田であり、今川は長年の刑事の経験上、そいつが嘘を吐いていることを見破っていた。後はじっくりと本当のことを喋らせるだけだ。

が、だからこそ合点がいかないのだ。容疑者の供述を信用するならあの時に轢いてしまったのはやはり拉致された少女の筈だ。にも拘らずそこにあったのはただのマネキンで、放り出された筈の少女の姿はどこにもなかったのである。

納得がいかない、筋が通らない、有り得る筈がない。そのあまりに腑に落ちない状況に、今川は不機嫌になっていたのであった。本当に、このところおかしなことばかり続いていると思わずにはいられなかった。

綺真神きまみ教による拉致事件の重要参考人と見られていた月城こよみの件といい今回の件といい、とにかく訳の分からないことが立て続けに起こっている。今川の刑事人生の中でも、こんなことはかつてなかった。どんなに難解な事件であっても、犯人ほしを挙げられないのは自分達警察側の初動の不備であったり証拠などの見落としであったりと、きちんと理由があったのだ。だが最近は明らかにそうでない事案がある。これは一体、何が起こっているというのか。

しかも、今回の被害者と思われる少女は、あの月城こよみと同じ中学校の生徒の筈だ。そう言えば、原因がよく分からないガス漏れによる爆発事故が起こったのもあの中学校だった。さらには、自分は担当ではないが山下沙奈という少女への虐待事件でも、最初に逮捕された三人の供述は要領を得ずかなり面倒なことになっていたらしい。幸い物証は十分だし犯行そのものは認めているからその後はスムーズに進んでいるらしいが、このところの不可解な事件には必ずあの中学校が絡んでいる。それぞれは全く無関係にも見えるが、確かにあの中学校なのだ。

昨日の張り込みは強盗及び強姦の容疑で指名手配されてる容疑者の立ち回り先を張っていただけでさすがに関係はないと思うが、それもあの中学校の近所だった。だからあの拉致事件に遭遇することになったのだとも言える。

今川の頭には、その中学校に対する得体の知れない疑念が渦巻いていた。

「市立吉泉きっせん中学校か…」

ポツリとその名を口にした今川の目が、ギラリと光っていた。



一方その頃、私は暇を持て余していた。こういう時は我ながらロクでもないことを思い付いてしまったりするので正直好ましくない。だがそれを紛らわせてくれるのが、月城こよみであり、黄三縞亜蓮きみじまあれんであり、新伊崎千晶にいざきちあきであった。このクラス以外でなら、肥土透ひどとおる山下沙奈やましたさなもそうか。とにかく私にとってはいい暇潰しの相手だ。

新伊崎千晶がバラまいた因縁も、早々に騒ぎを起こしてくれるだろう。焦る必要はない。イベントは向こうから勝手にやってきてくれるのだ。

それに加えて、実は魔法学校に通ってた魔法使い候補だったことが判明した赤島出姫織《あかしまできおり》の出方も興味深くはある。見逃してやるとは言ったが、絡んでくるなら相手をしてやるぞ。しかも、赤島出姫織はこのまま大人しくしてたとしても、魔法使い共がこの地球で人材集めでもしてるのならば、いずれ絡んできてくれるだろう。楽しみだ。

『そう言えば以前、別の惑星で、才能ある魔法使いを集める為に無茶なことをしていた奴らがいたな。結局はその所為で自分達こそが邪悪な存在として滅ぼされる側になったりもしていたが、あの後どうなっただろう……?』

ふとそんなことを思いだした。

ああそうだ、奴らが敵とみなしてたのは私だった。私を滅ぼす為に強力な魔法使いを欲してたんだったな。だがやり過ぎて恨まれたんだったか。しかも滅ぼすべき敵である筈の私の方が結果としてその惑星を救うことになったのだ。いや、あれは傑作だった。まさに人間の愚かさの最たるものだったな。くくく。

私を滅ぼす為に強力な魔法使いが必要だったというのに、その強力な魔法使いを欲するあまりに無茶苦茶なことをしたのだ。確か、<蟲毒>とか言う手法だったかな。才能がありそうな連中を集めて一人しか生き残れない人工環境に閉じ込め、そこで生き残った奴に強力な術を使える施術を施すとかなんとか。完全に手段が目的化している。私を滅することができる魔法使いを獲得すること自体が目的になってしまっていたということだ。結果、その惑星の社会は魔法使いを生み出す為の養殖場と化し、権力を持った者は自分がそれから逃れる為に汚職と賄賂と裏取引を駆使し、人心は乱れ、権威は失墜し、社会は荒廃し、人間同士で争うのが当たり前になった。

結果、その魔法学校(と言うか社会そのものだな)は、自分達が作り出した強力な魔法使いによって徹底的に破壊され、結局は一握りの人間だけが生き残り、そいつらはまた一からやり直す羽目になったんだったな。で、私はその際、魔法学校を破壊するのに力を貸してやったという訳だ。

あの時も、ただの人間同士の諍いだったから巻き戻しは行わなかった。数億の人間が死んだが、人間同士が勝手に争って招いた結果だ。私の知ったことではない。そもそも私がその気になれば惑星ごと消し去れるのだ。それから比べれば生き残った人間がいただけでも十分に慈悲だ。魔法ごときで私をどうにかできるなど思い上がりも甚だしい。

千年後くらいにまたその惑星を覗いた時には人間は増え始めていたが、さて、どうなったことやら。

また別の惑星の魔法使い共は、他の惑星の人間をスカウトと称して攫っては魔法使いにしてたからな。それで攫われて魔法使いにされた人間が反旗を翻してやはり滅んだ。そこで敵とみなされてたのは私とは別の奴だったが、結果としては同じことだ。手段が目的になってしまってはバランスを失う。

しかも人間ごときではどれほど頑張ったところで私達は滅ぼせん。そのようなことに躍起になる意味がない。身の程をわきまえれば無駄な争いをせずに済んだのにな。

この星の人間共も、いずれ私達の存在を知った時、どういう反応をするかな。私達と真っ向からやり合おうとすれば待っているのは破滅だけだ。

必要なのは勝つことではなく負けないことだ。誇りで人間は生きられぬ。そんな自己満足で納得できるのは一部の人間だけだ。そういう連中が音頭を取って焚き付けているのであっても満足して死んでいける奴はいいが、そうでない奴らはたまったものじゃない。そういう奴らにとっては自己満足に酔ってる奴らこそが邪悪な存在になるということだな。

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