JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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夏休みの章

価値観

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自殺に失敗した明花さやかは、どうしようもない諦観の中にいた。

『私は、死ぬこともできないんだ……』

こうして彼女は、何もかもを諦めて、流されるままに生きることを受け入れたのだった。



が、そんな彼女の境遇が一変する出来事が起こった。ある日彼女が学校から帰ってくると、父親が居間で倒れていた。

それは、一目見ただけでもただならぬことが起きているのが分かる様子だった。

一体、どんな恐ろしいものを見ればこんな表情かおになるのかという相貌で、父親は虚空を見詰めたまま事切れていた。

警察も来て現場検証を行ったが、結局、何が起こったのか判然とはせず、しかし何者かの関与を窺わせる物証も状況証拠も得られず、検死においても突然心停止したという以外の所見も得られず、結果としては<病死>として処理されることになったのだという。

しかし、それによって恩恵を得たのは、残された母娘だった。

母親が父親に生命保険を掛けていたことで保険金が入り、しかも母親のパート先の常連客だった銀行員の男性との再婚が決まり、母娘の生活環境は一変した。

それまでの爪に火を点すような倹約倹約の生活から、高級レストランでランチを気軽にとれるようになり、洋服やアクセサリーも我慢することなく好きなものが買え、母娘はその夢のような生活に酔いしれた。

ただ、そんな<棚からぼた餅>のような生活は長くは続かず、明花さやかが大学に進学した頃には放蕩三昧の有様に愛想を尽かされ、『無計画に散財されて生活が成り立たなくなった』との理由で離婚を切り出され、三年間の法廷闘争の果てに離婚が成立。婚姻関係が破綻した原因は妻側にあるとして慰謝料や財産分与も認められずに、再び切り詰めた生活を強いられるようになったのだそうだ。

この時には明花さやかも成人していた為に、もちろん養育費等も支払われることはなかった。

そしてこれらの経験は明花さやかに独特の価値観を育んでいたようだ。

『人間は信用できない。信じられるのは<お金>だけだ』

という、先鋭化した価値観だった。

だから明花さやかは自身を磨き、しかも幼い頃から父親に仕込まれた男を悦ばせる技術を用いて、一部上場企業でエリートコースをひた走る男性、赤島出邦弘あかしまでくにひろとの結婚にこぎつけたのであった。

『私は、母親のような失敗はしない。今度こそ満たされた生活を失ったりしない。必ず上手くやってみせる』

明花さやかがそう心に誓ったのは、彼女の境遇を思えば無理もなかったのかもしれない。

だが彼女は根本的に欠落した人間となっていた。

『子を愛する』ということができない人間になっていたのである。

しかしそれも、子を持たなければそんなに大きな問題にはならなかったかもしれない。

が、体裁を重視した彼女と夫は、打算的な理由から子を生してしまったのだった。

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