126 / 562
夏休みの章
見慣れた姿
しおりを挟む
自然科学部の部室を出て廊下を奔り、空き教室の中を確認して向かいの石脇佑香が焼き付けられた鏡の脇にある階段へと向かう。
だがその時、そちらに人の気配が。
「なんのっ!」
焦りながらも月城こよみは、階段ホールから出てきた男子生徒二人の意識を操作。認識阻害は無理でも、ほんの一瞬、意識を逸らす程度ならできた。それに合わせて意識から外れ、壁を蹴って階段ホールへと飛び込む。
そこからは『階段を上る』と言うよりもそれこそ壁を上って二階の廊下に出るところの天井付近にしがみつき、廊下の様子を窺った。そうしたのは、まさか天井近くから人間が顔を出すとは普通は考えないし、そんなところに意識を向けないからな。盲点と言うやつだ。
もっとも、既に気配を探った後で確認の為にも目視しようとしただけなので、別にそこまでしなくてもよかったんだがな。まあ、念の為ということだ。
それに。
「う~む……なんかちょっと楽しくなってきたかも…」
と、月城こよみ自身、ノってきてしまったらしい。まったく。調子のいい奴だ。
でもまあ、気持ちは分からなくもないがな。
私も実は少し楽しんでたりするのだ。
さっきのでコツを掴んだらしく、廊下にいた数人の生徒の意識を逸らし、その隙にまた廊下を、と言うか天井近くの壁を奔り教室の中を確認しながら反対側の階段ホールまでを移動した。
しかしどうやらここも違ったようだ。
この校舎は四階まであるので、取り敢えずはあと二階か。
もっとも、指示にあった<ボス>というのがこの校舎内にいるとは限らんが。他の校舎ということもありうる。
むしろ、そちらの可能性の方が高そうだ。私達のこの姿を衆目に曝させたいのであれば、な。
だがもう無駄だ。意識を他に向けさせてしまえばいいことに気付いた月城こよみにはもはや通じん。
「まったく。どこの誰だか知らないけど、絶対、ぶん殴ってやるから」
と、口では勇ましいことを言うものの、こいつは性根が甘いからな。本気で殴ったりはせんだろう。そう言いたいだけだ。
最初よりは余裕も出てきて、そんなことを口にできるだけ頭も冷めてきたということだな。
だがとにかく今はミッションの完遂を目指そう。
三階にもボスらしきものは見当たらず、四階へと向かおうとしたその時、私達の視界に見慣れた姿……
って、違うぞ。<見慣れた姿>などではない。
「う~ん、ボスって何のことかなあ…」
なんて呟きながら平然と階段を上ってきたのは、ウサギの耳を生やした<驚異の胸囲>。
白い毛皮に包まれた玖島楓恋の姿なのだった。
だがその時、そちらに人の気配が。
「なんのっ!」
焦りながらも月城こよみは、階段ホールから出てきた男子生徒二人の意識を操作。認識阻害は無理でも、ほんの一瞬、意識を逸らす程度ならできた。それに合わせて意識から外れ、壁を蹴って階段ホールへと飛び込む。
そこからは『階段を上る』と言うよりもそれこそ壁を上って二階の廊下に出るところの天井付近にしがみつき、廊下の様子を窺った。そうしたのは、まさか天井近くから人間が顔を出すとは普通は考えないし、そんなところに意識を向けないからな。盲点と言うやつだ。
もっとも、既に気配を探った後で確認の為にも目視しようとしただけなので、別にそこまでしなくてもよかったんだがな。まあ、念の為ということだ。
それに。
「う~む……なんかちょっと楽しくなってきたかも…」
と、月城こよみ自身、ノってきてしまったらしい。まったく。調子のいい奴だ。
でもまあ、気持ちは分からなくもないがな。
私も実は少し楽しんでたりするのだ。
さっきのでコツを掴んだらしく、廊下にいた数人の生徒の意識を逸らし、その隙にまた廊下を、と言うか天井近くの壁を奔り教室の中を確認しながら反対側の階段ホールまでを移動した。
しかしどうやらここも違ったようだ。
この校舎は四階まであるので、取り敢えずはあと二階か。
もっとも、指示にあった<ボス>というのがこの校舎内にいるとは限らんが。他の校舎ということもありうる。
むしろ、そちらの可能性の方が高そうだ。私達のこの姿を衆目に曝させたいのであれば、な。
だがもう無駄だ。意識を他に向けさせてしまえばいいことに気付いた月城こよみにはもはや通じん。
「まったく。どこの誰だか知らないけど、絶対、ぶん殴ってやるから」
と、口では勇ましいことを言うものの、こいつは性根が甘いからな。本気で殴ったりはせんだろう。そう言いたいだけだ。
最初よりは余裕も出てきて、そんなことを口にできるだけ頭も冷めてきたということだな。
だがとにかく今はミッションの完遂を目指そう。
三階にもボスらしきものは見当たらず、四階へと向かおうとしたその時、私達の視界に見慣れた姿……
って、違うぞ。<見慣れた姿>などではない。
「う~ん、ボスって何のことかなあ…」
なんて呟きながら平然と階段を上ってきたのは、ウサギの耳を生やした<驚異の胸囲>。
白い毛皮に包まれた玖島楓恋の姿なのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
深淵の孤独
阿波野治
ホラー
中学二年生の少年・楠部龍平は早起きをした朝、学校の校門に切断された幼い少女の頭部が放置されているのを発見。気が動転するあまり、あろうことか頭部を自宅に持ち帰ってしまう。龍平は殺人鬼の復讐に怯え、頭部の処理に思い悩む、暗鬱で孤独な日々を強いられる。
性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話
タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。
金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。
『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』
飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。
「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。
それは『バーで24時間働け』というもので……?
怪異から論理の糸を縒る
板久咲絢芽
ホラー
怪異は科学ではない。
何故なら彼此の前提条件が判然としないが故に、同じものを再現できないから。
それ故に、それはオカルト、秘されしもの、すなわち神秘である。
――とはいえ。
少なからず傾向というものはあるはずだ。
各地に散らばる神話や民話のように、根底に潜む文脈、すなわち暗黙の了解を紐解けば。
まあ、それでも、どこまで地層を掘るか、どう継いで縒るかはあるけどね。
普通のホラーからはきっとズレてるホラー。
屁理屈だって理屈だ。
出たとこ勝負でしか書いてない。
side Aは問題解決編、Bは読解編、みたいな。
ちょこっとミステリ風味を利かせたり、ぞくぞくしてもらえたらいいな、を利かせたり。
基本章単位で一区切りだから安心して(?)読んでほしい
※タイトル胴体着陸しました
カクヨムさんに先行投稿中(編集気質布教希望友人に「いろんなとこで投稿しろ、もったいないんじゃ」とつつかれたので)
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
出雲の駄菓子屋日誌
にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。
主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。
中には、いわくつきの物まで。
年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。
目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。
GATEKEEPERS 四神奇譚
碧
ホラー
時に牙を向く天災の存在でもあり、時には生物を助け生かし守る恵みの天候のような、そんな理を超えたモノが世界の中に、直ぐ触れられる程近くに確かに存在している。もしも、天候に意志があるとしたら、天災も恵みも意思の元に与えられるのだとしたら、この世界はどうなるのだろう。ある限られた人にはそれは運命として与えられ、時に残酷なまでに冷淡な仕打ちであり時に恩恵となり語り継がれる事となる。
ゲートキーパーって知ってる?
少女が問いかける言葉に耳を傾けると、その先には非日常への扉が音もなく口を開けて待っている。
闇夜に道連れ ~友哉とあきらの異常な日常~
緋川真望
ホラー
少しだけ歪んでいたとしても、そばにいるだけで、きっと幸せ。
盲目で何も見えないはずの友哉の目には、怪異が映る。
半妖のあきらの目にも、怪異が映る。
でも、二人に見えているものは同じではなかった。
盲目の友哉と半妖のあきらは便利屋をしながら各地を転々として暮らしている。
今回依頼があったのは築三年の新しいアパートで、事故物件でもないのに、すでに6人も行方不明者が出ているという。
アパートを訪れたふたりはさっそく怪異に巻き込まれてしまい……。
序章は現代(19歳)、第一章から第七章まで二人の高校時代のお話(友哉の目が見えなくなる原因など)、終章はまた現代に戻る構成です。
ホラーみのあるブロマンスです。
エロはありません。
エブリスタでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる