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夏休みの章
非モテ男の想い
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自然科学部に所属する二年生の貴志騨一成は、鉄壁の非モテである。
なにしろ、身長は百五十もないのに体重は八十キロを超え、まるで<色の悪いミカン>を思わせるそのニキビ面には巨大な腫物のような鼻と、ナイフで切れ込みを入れたかのような細い目と、特価品として出され客に乱暴に扱われたせいで形が崩れて干からびたタラコを思わせる唇が貼り付いているだけなのだから。
少なくとも、どうしても外見から入ってしまいがちな人間にとってはハードルは決して低くないだろう。
しかも、こいつは、外見だけでなくその振る舞いも内面も異様なのである。
『外見じゃなく内面で判断してほしい!』
などと言う人間は多いが、そういうことを言ってる時点で、<卑屈な内面>が覗いてしまっているのだ。決して美しくも清らかでも高潔でもない内面が。だからそういうことを言っている人間が選ばれないのは、『しっかりと内面を見た上で』のことなのだ。
残念ながらな。
ちなみに貴志騨一成の場合は、もはやそういうことすら本人は諦めて達観しているようではあるが。
だから奴の想いは、ただただ一方的に相手に向けられるものであった。
で、こいつが今、想いを寄せているのは、自然科学部部長の代田真登美と、玖島楓恋の二人である。
そう、二人なのだ。どちらの方が好きとかじゃなく、どちらも好きなのだ。
なぜかと言えば、二人とも、貴志騨一成のことを見下しも毛嫌いもしていないからである。
幼い頃から他人から『醜い』と、まるで息をするかのように自然に蔑まれ、それに慣れてしまって、他人が自分を受け入れることなど有り得ないと、既に小学生の頃から悟りきってしまっていたところに、二人が突然、現れたのだ。
最初はもちろん、信じていなかった。これまでにも口先だけなら、
『外見なんて気にしない』
と言う女子もいた。
だがそういう女子は、
『外見なんて気にしない私って内面美人でしょ?』
などというアピールをしたいが為にそう言っているのだということを何度も何度も何度も何度も思い知らされてきた。
そういうものだと諦観を得ていた。
なのに、代田真登美と玖島楓恋は、屈託のない笑顔を向けながら、
「ねえ? 超自然科学とか興味ない?」
と訊いてきたのである。そして二人の目には、貴志騨一成を蔑むような見下すような嘲るような色が、何度顔を合わせても全く見えなかったのである。
貴志騨一成は、そんな女子を、いや、そんな<人間>を見たことがなかった。自分のような存在を蔑みも見下しも嘲りもしないような人間など、二次元の中にしかいないと思っていた。
思っていたのに。
それなのに、出逢ってしまった。めぐり合ってしまった。そうなるともう、気持ちを抑えておくことができなかったのだ。
『もしかしたら信じられる人間もいるのかもしれない』
という想いを。
なにしろ、身長は百五十もないのに体重は八十キロを超え、まるで<色の悪いミカン>を思わせるそのニキビ面には巨大な腫物のような鼻と、ナイフで切れ込みを入れたかのような細い目と、特価品として出され客に乱暴に扱われたせいで形が崩れて干からびたタラコを思わせる唇が貼り付いているだけなのだから。
少なくとも、どうしても外見から入ってしまいがちな人間にとってはハードルは決して低くないだろう。
しかも、こいつは、外見だけでなくその振る舞いも内面も異様なのである。
『外見じゃなく内面で判断してほしい!』
などと言う人間は多いが、そういうことを言ってる時点で、<卑屈な内面>が覗いてしまっているのだ。決して美しくも清らかでも高潔でもない内面が。だからそういうことを言っている人間が選ばれないのは、『しっかりと内面を見た上で』のことなのだ。
残念ながらな。
ちなみに貴志騨一成の場合は、もはやそういうことすら本人は諦めて達観しているようではあるが。
だから奴の想いは、ただただ一方的に相手に向けられるものであった。
で、こいつが今、想いを寄せているのは、自然科学部部長の代田真登美と、玖島楓恋の二人である。
そう、二人なのだ。どちらの方が好きとかじゃなく、どちらも好きなのだ。
なぜかと言えば、二人とも、貴志騨一成のことを見下しも毛嫌いもしていないからである。
幼い頃から他人から『醜い』と、まるで息をするかのように自然に蔑まれ、それに慣れてしまって、他人が自分を受け入れることなど有り得ないと、既に小学生の頃から悟りきってしまっていたところに、二人が突然、現れたのだ。
最初はもちろん、信じていなかった。これまでにも口先だけなら、
『外見なんて気にしない』
と言う女子もいた。
だがそういう女子は、
『外見なんて気にしない私って内面美人でしょ?』
などというアピールをしたいが為にそう言っているのだということを何度も何度も何度も何度も思い知らされてきた。
そういうものだと諦観を得ていた。
なのに、代田真登美と玖島楓恋は、屈託のない笑顔を向けながら、
「ねえ? 超自然科学とか興味ない?」
と訊いてきたのである。そして二人の目には、貴志騨一成を蔑むような見下すような嘲るような色が、何度顔を合わせても全く見えなかったのである。
貴志騨一成は、そんな女子を、いや、そんな<人間>を見たことがなかった。自分のような存在を蔑みも見下しも嘲りもしないような人間など、二次元の中にしかいないと思っていた。
思っていたのに。
それなのに、出逢ってしまった。めぐり合ってしまった。そうなるともう、気持ちを抑えておくことができなかったのだ。
『もしかしたら信じられる人間もいるのかもしれない』
という想いを。
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