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夏休みの章
復讐は当然の権利
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「いくらなんでもそれはマズいよ。やめようよ」
その日、月城こよみは、たまたま本屋に買い物に行った帰りに通りがかった公園で、小学生高学年くらいの少年ら四人を相手にそう諭していた。
そんな月城こよみらの傍にある砂場では、頭だけを出して体は砂に埋められた猫が一匹、「ミャーッ! ミャーッ!!」と声を上げながらもがいている。少年らによってそこに埋められたのだ。
そこに月城こよみが通りがかって、やめるように諭しているという訳だった。
が、少年の一人は、
「なんだよお前! 邪魔すんなよ! これは<復讐>なんだからよ!」
と吠えるように噛みついてきた。
「復讐?」
問い返す月城こよみに、少年は猫に向かって石を投げつけながら、
「こいつ、俺の妹が大事にしてたカナリヤを殺したんだ! だから俺が妹に代わって復讐するんだ!」
などと叫ぶ。
すると他の少年達も、
「そうだそうだ! これは復讐なんだよ!」
「俺達だって知ってるぞ! 法律はこういう時、守ってくれないんだ! だから自分でやるしかないんだ」
「ネットでもそう書いてたぞ! 復讐が禁止されてるから世の中はどんどん悪くなっていってるって!!」
と口々に言った。
そんな少年らに、月城こよみは困惑していた。
『こういう時、どうやって説明したらいいんだろう…』
クォ=ヨ=ムイとしての知識の一部を引き継いでいるので、理屈だけなら分かる。
法律が復讐を禁止しているのは、社会秩序を守る為だということを。個人の復讐心よりも社会秩序が優先されるべきだからだということを。
好き勝手に復讐が行われていては、社会秩序は崩壊する。
<復讐>なるものが合法として認められている国もあると言う人間はいるが、実はそれが認められているところであっても、無制限に好き勝手にやっていい訳ではなかったりするのだ。それはそれで厳しい決まりごとがあり、必ずしも復讐が認められる訳ではないし、身分差があった場合には、身分が下の者が上の者に復讐することも認められなかったり、権力を持つものは結局、罪を免除されたりということが横行しているのである。
とにかく復讐というものを認めさせたがる人間は、そういう事実を見ようとはしないのだ。
この少年達もそうだった。
猫に人間の法律もルールも都合も関係ない。責任があるとすれば飼い主の方でありそちらに怒鳴り込むのが筋の筈だが、<復讐は当然の権利>と思い込んでいる少年らには、その道理が通じなかった。
そして、どう説明すべきか思案していた月城こよみの目の前で、突然、少年らの頭が、まるで、ライフルで撃たれたスイカのように爆ぜる。
「……え?」
思いがけぬ事態に呆気に取られた月城こよみが視線を移すと、そこには、石礫を手にした、あの<スーパーパワーを手にした男>が立っていたのだった。
その日、月城こよみは、たまたま本屋に買い物に行った帰りに通りがかった公園で、小学生高学年くらいの少年ら四人を相手にそう諭していた。
そんな月城こよみらの傍にある砂場では、頭だけを出して体は砂に埋められた猫が一匹、「ミャーッ! ミャーッ!!」と声を上げながらもがいている。少年らによってそこに埋められたのだ。
そこに月城こよみが通りがかって、やめるように諭しているという訳だった。
が、少年の一人は、
「なんだよお前! 邪魔すんなよ! これは<復讐>なんだからよ!」
と吠えるように噛みついてきた。
「復讐?」
問い返す月城こよみに、少年は猫に向かって石を投げつけながら、
「こいつ、俺の妹が大事にしてたカナリヤを殺したんだ! だから俺が妹に代わって復讐するんだ!」
などと叫ぶ。
すると他の少年達も、
「そうだそうだ! これは復讐なんだよ!」
「俺達だって知ってるぞ! 法律はこういう時、守ってくれないんだ! だから自分でやるしかないんだ」
「ネットでもそう書いてたぞ! 復讐が禁止されてるから世の中はどんどん悪くなっていってるって!!」
と口々に言った。
そんな少年らに、月城こよみは困惑していた。
『こういう時、どうやって説明したらいいんだろう…』
クォ=ヨ=ムイとしての知識の一部を引き継いでいるので、理屈だけなら分かる。
法律が復讐を禁止しているのは、社会秩序を守る為だということを。個人の復讐心よりも社会秩序が優先されるべきだからだということを。
好き勝手に復讐が行われていては、社会秩序は崩壊する。
<復讐>なるものが合法として認められている国もあると言う人間はいるが、実はそれが認められているところであっても、無制限に好き勝手にやっていい訳ではなかったりするのだ。それはそれで厳しい決まりごとがあり、必ずしも復讐が認められる訳ではないし、身分差があった場合には、身分が下の者が上の者に復讐することも認められなかったり、権力を持つものは結局、罪を免除されたりということが横行しているのである。
とにかく復讐というものを認めさせたがる人間は、そういう事実を見ようとはしないのだ。
この少年達もそうだった。
猫に人間の法律もルールも都合も関係ない。責任があるとすれば飼い主の方でありそちらに怒鳴り込むのが筋の筈だが、<復讐は当然の権利>と思い込んでいる少年らには、その道理が通じなかった。
そして、どう説明すべきか思案していた月城こよみの目の前で、突然、少年らの頭が、まるで、ライフルで撃たれたスイカのように爆ぜる。
「……え?」
思いがけぬ事態に呆気に取られた月城こよみが視線を移すと、そこには、石礫を手にした、あの<スーパーパワーを手にした男>が立っていたのだった。
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