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夏休みの章
スーパーパワー
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改めてエルディミアンが何故そんなことをするのかと言えば、ただ単純に『楽しい』からだ。それ以外はない。奴らもあくまで自らの欲求や欲望に忠実な<化生>でしかなく、その行動原理に<善>などというものは存在しない。奴らの愉悦が人間の思う<善>に何となく近い場合もあるというだけでしかないのだ。
そしてこの時もまた、エルディミアンは自らの楽しみの為に一人の人間に、全く何の予備知識も心構えもない状態で超常の力を与えてしまった。
「…これが、<光の力>…!?」
己の中に湧きあがるすさまじい力に困惑しつつも、男はずっと夢見てきた、
『鬱屈した今の自分を全部ぶち壊す異能力』
と手にした現実に、すべてが解放されるのを感じていた。
そう、<すべて>だ。自分が<悪>だと思うものを容赦なく屠るスーパーパワーをようやく手にしたことで。
「分かったぜ! この力で、<悪>はみなぶっ飛ばしてやる!」
そんな風に熱を帯びた言葉を発した男だったが、この時に男が口にした<悪>とは何だったのだろう?
その正体はすぐに分かることとなった。
エルディミアンが具体的な<敵>を示さなかったことで、あくまで<この男にとっての悪>と闘うこととなったのだ。
だがまずは、過大電流が流れたことで火災を起こした野球場施設の消火を行う。
どうすればいいのか、男の頭の中にはイメージがあった。燃え盛る炎の前で大きく息を吸い込み、熱いスープを冷ますようにフーッと息を吹きかける。
すると男の呼気は零下二百度の凍てつく風となり、見る間に熱を奪って炎を消し去っただけでなく、電気設備そのものを分厚い氷で閉ざしてしまった。
すると男は満足そうに、
「よし! これでもう大丈夫!」
と声を上げて、その場を立ち去る。
確かに火災は収まったのだが、この後、<男の異能力によって生じた氷に似た何か>を前に、後始末をする人間が大変な苦労することなど想像もせずに。
そんな折、野球場の近くの路地で、黒塗りのベンツに追突した若い男が、ベンツから降りてきた<いかにもその筋>と思しきサングラスの男に詰め寄られていた。
その光景を見た<スーパーパワーを手にした男>は、颯爽とその場に駆け寄り、若い男に詰め寄っていたサングラスの男の頬を軽く小突くと、グシャッという手応えと共に骨が砕け、殴られた男の顔が有り得ない形に変化してしまう。
一撃でサングラスの男は意識を失って昏倒したが、<スーパーパワーを手にした男>はそれだけでは飽き足らず、異様な圧力を放つ黒塗りのベンツを見て不愉快そうに顔をしかめ、大きく体を逸らして拳を握り締めると、それをただかつてビル解体に使われていた鉄球のごとく叩きつけた。それによりベンツは、本当に大きな鉄球で潰されたかのように一瞬でひしゃげてしまったのだった。
中に乗っていた、二歳ぐらいの幼子と共に。
そしてこの時もまた、エルディミアンは自らの楽しみの為に一人の人間に、全く何の予備知識も心構えもない状態で超常の力を与えてしまった。
「…これが、<光の力>…!?」
己の中に湧きあがるすさまじい力に困惑しつつも、男はずっと夢見てきた、
『鬱屈した今の自分を全部ぶち壊す異能力』
と手にした現実に、すべてが解放されるのを感じていた。
そう、<すべて>だ。自分が<悪>だと思うものを容赦なく屠るスーパーパワーをようやく手にしたことで。
「分かったぜ! この力で、<悪>はみなぶっ飛ばしてやる!」
そんな風に熱を帯びた言葉を発した男だったが、この時に男が口にした<悪>とは何だったのだろう?
その正体はすぐに分かることとなった。
エルディミアンが具体的な<敵>を示さなかったことで、あくまで<この男にとっての悪>と闘うこととなったのだ。
だがまずは、過大電流が流れたことで火災を起こした野球場施設の消火を行う。
どうすればいいのか、男の頭の中にはイメージがあった。燃え盛る炎の前で大きく息を吸い込み、熱いスープを冷ますようにフーッと息を吹きかける。
すると男の呼気は零下二百度の凍てつく風となり、見る間に熱を奪って炎を消し去っただけでなく、電気設備そのものを分厚い氷で閉ざしてしまった。
すると男は満足そうに、
「よし! これでもう大丈夫!」
と声を上げて、その場を立ち去る。
確かに火災は収まったのだが、この後、<男の異能力によって生じた氷に似た何か>を前に、後始末をする人間が大変な苦労することなど想像もせずに。
そんな折、野球場の近くの路地で、黒塗りのベンツに追突した若い男が、ベンツから降りてきた<いかにもその筋>と思しきサングラスの男に詰め寄られていた。
その光景を見た<スーパーパワーを手にした男>は、颯爽とその場に駆け寄り、若い男に詰め寄っていたサングラスの男の頬を軽く小突くと、グシャッという手応えと共に骨が砕け、殴られた男の顔が有り得ない形に変化してしまう。
一撃でサングラスの男は意識を失って昏倒したが、<スーパーパワーを手にした男>はそれだけでは飽き足らず、異様な圧力を放つ黒塗りのベンツを見て不愉快そうに顔をしかめ、大きく体を逸らして拳を握り締めると、それをただかつてビル解体に使われていた鉄球のごとく叩きつけた。それによりベンツは、本当に大きな鉄球で潰されたかのように一瞬でひしゃげてしまったのだった。
中に乗っていた、二歳ぐらいの幼子と共に。
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