JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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夏休みの章

邪神の溜息

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『やれやれ、勝手なことをしおって。まあ別に大したことではないがな』

石脇佑香いしわきゆうかの暴走に、クォ=ヨ=ムイは呆れていた。幸い大惨事とまではいかなかったし少々の被害については後始末もしておいたから問題はない筈だが、それにしてもよくやる。

もっとも、人間などこういうものだとクォ=ヨ=ムイは知っていた。大きな力を得ると簡単に暴走する。それを完全に律することができる者など、ほんの一握りしかいない。どれほど正義や善を声高に叫んでいる者でも、一皮むけば大抵はこんなものだ。もしくは何でも叶うことに虚しさを感じ逆に無気力になるかのどちらかだ。例外は滅多にいないからこそ例外なのだ。

だから、石脇佑香を責めるつもりも罰するつもりも毛頭なかった。こうなることは予測していた。予測の範囲内過ぎて少し物足りなささえ感じているくらいだ。

『人間を滅ぼせばアニメが見られなくなる』

そのことに自分で気付いたから、今後はもう大きく暴走することはないだろう。それでいい。それより自分は今、再度、表向きは人間として振る舞う為のその下準備で忙しい。

今回の騒動は一般には公表されなかったが、それでも気付いた者は結構いて、世界中で株価が乱高下していた。クォ=ヨ=ムイはそれを利用し、僅かな期間で数十億の利益を上げていた。株のデイトレードだ。彼女がその気になれば、インサイダー取引など何の証拠も残さずに出来る。楽なものだった。

利益のうちの数億を取り敢えず現金化し、自らの預金口座に当座の生活資金としておいた。それを用いて二軒の家を買い、生活用品も揃えた。月城こよみとしての生活拠点を失ったことで新たに作る羽目になったが、まあ結果としてこれはこれで楽しかったから別にいいだろう。

二軒のうちの一軒は、学校の正門から僅か数十メートルのところにある、築四十年の建売住宅だった。その内部を自らリフォームして自宅とした。リフォームに要した時間は約十秒。それにより、いかにもな外観からは想像もつかないほどに洒落た空間となった。

また、部室前の鏡に焼き付けられた石脇佑香がネットにアクセスしやすいようにと、小さな家には不釣り合いなほどの性能を持った無線ルーターも設置し、ここからネットにアクセスできるようにしてやった。それでも普通の無線端末ではさすがに電波が弱くて駄目だろうが、今の石脇佑香なら十分である。大型のテレビモニターはPCに繋いでディスプレイとしても使えるようにした。

「どうだ? これで話しやすくなっただろう」

リビングの壁に掛けられたテレビモニターに大写しになった石脇佑香に向かってクォ=ヨ=ムイが話し掛ける。

「ですね~、ありがとうございます~」

そう言って陽気に話す石脇佑香にも、人間だった頃の面影は全く無かった。彼女はもう完全に、『かつて石脇佑香と呼ばれた人間の成れの果ての怪物』でしかなかったのであった。

「あはははは」と屈託なく笑いながらも、その笑顔はどこか邪悪で狂気に満ちたものとなっていたのだった。

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