104 / 562
夏休みの章
邪神の溜息
しおりを挟む
『やれやれ、勝手なことをしおって。まあ別に大したことではないがな』
石脇佑香の暴走に、クォ=ヨ=ムイは呆れていた。幸い大惨事とまではいかなかったし少々の被害については後始末もしておいたから問題はない筈だが、それにしてもよくやる。
もっとも、人間などこういうものだとクォ=ヨ=ムイは知っていた。大きな力を得ると簡単に暴走する。それを完全に律することができる者など、ほんの一握りしかいない。どれほど正義や善を声高に叫んでいる者でも、一皮むけば大抵はこんなものだ。もしくは何でも叶うことに虚しさを感じ逆に無気力になるかのどちらかだ。例外は滅多にいないからこそ例外なのだ。
だから、石脇佑香を責めるつもりも罰するつもりも毛頭なかった。こうなることは予測していた。予測の範囲内過ぎて少し物足りなささえ感じているくらいだ。
『人間を滅ぼせばアニメが見られなくなる』
そのことに自分で気付いたから、今後はもう大きく暴走することはないだろう。それでいい。それより自分は今、再度、表向きは人間として振る舞う為のその下準備で忙しい。
今回の騒動は一般には公表されなかったが、それでも気付いた者は結構いて、世界中で株価が乱高下していた。クォ=ヨ=ムイはそれを利用し、僅かな期間で数十億の利益を上げていた。株のデイトレードだ。彼女がその気になれば、インサイダー取引など何の証拠も残さずに出来る。楽なものだった。
利益のうちの数億を取り敢えず現金化し、自らの預金口座に当座の生活資金としておいた。それを用いて二軒の家を買い、生活用品も揃えた。月城こよみとしての生活拠点を失ったことで新たに作る羽目になったが、まあ結果としてこれはこれで楽しかったから別にいいだろう。
二軒のうちの一軒は、学校の正門から僅か数十メートルのところにある、築四十年の建売住宅だった。その内部を自らリフォームして自宅とした。リフォームに要した時間は約十秒。それにより、いかにもな外観からは想像もつかないほどに洒落た空間となった。
また、部室前の鏡に焼き付けられた石脇佑香がネットにアクセスしやすいようにと、小さな家には不釣り合いなほどの性能を持った無線ルーターも設置し、ここからネットにアクセスできるようにしてやった。それでも普通の無線端末ではさすがに電波が弱くて駄目だろうが、今の石脇佑香なら十分である。大型のテレビモニターはPCに繋いでディスプレイとしても使えるようにした。
「どうだ? これで話しやすくなっただろう」
リビングの壁に掛けられたテレビモニターに大写しになった石脇佑香に向かってクォ=ヨ=ムイが話し掛ける。
「ですね~、ありがとうございます~」
そう言って陽気に話す石脇佑香にも、人間だった頃の面影は全く無かった。彼女はもう完全に、『かつて石脇佑香と呼ばれた人間の成れの果ての怪物』でしかなかったのであった。
「あはははは」と屈託なく笑いながらも、その笑顔はどこか邪悪で狂気に満ちたものとなっていたのだった。
石脇佑香の暴走に、クォ=ヨ=ムイは呆れていた。幸い大惨事とまではいかなかったし少々の被害については後始末もしておいたから問題はない筈だが、それにしてもよくやる。
もっとも、人間などこういうものだとクォ=ヨ=ムイは知っていた。大きな力を得ると簡単に暴走する。それを完全に律することができる者など、ほんの一握りしかいない。どれほど正義や善を声高に叫んでいる者でも、一皮むけば大抵はこんなものだ。もしくは何でも叶うことに虚しさを感じ逆に無気力になるかのどちらかだ。例外は滅多にいないからこそ例外なのだ。
だから、石脇佑香を責めるつもりも罰するつもりも毛頭なかった。こうなることは予測していた。予測の範囲内過ぎて少し物足りなささえ感じているくらいだ。
『人間を滅ぼせばアニメが見られなくなる』
そのことに自分で気付いたから、今後はもう大きく暴走することはないだろう。それでいい。それより自分は今、再度、表向きは人間として振る舞う為のその下準備で忙しい。
今回の騒動は一般には公表されなかったが、それでも気付いた者は結構いて、世界中で株価が乱高下していた。クォ=ヨ=ムイはそれを利用し、僅かな期間で数十億の利益を上げていた。株のデイトレードだ。彼女がその気になれば、インサイダー取引など何の証拠も残さずに出来る。楽なものだった。
利益のうちの数億を取り敢えず現金化し、自らの預金口座に当座の生活資金としておいた。それを用いて二軒の家を買い、生活用品も揃えた。月城こよみとしての生活拠点を失ったことで新たに作る羽目になったが、まあ結果としてこれはこれで楽しかったから別にいいだろう。
二軒のうちの一軒は、学校の正門から僅か数十メートルのところにある、築四十年の建売住宅だった。その内部を自らリフォームして自宅とした。リフォームに要した時間は約十秒。それにより、いかにもな外観からは想像もつかないほどに洒落た空間となった。
また、部室前の鏡に焼き付けられた石脇佑香がネットにアクセスしやすいようにと、小さな家には不釣り合いなほどの性能を持った無線ルーターも設置し、ここからネットにアクセスできるようにしてやった。それでも普通の無線端末ではさすがに電波が弱くて駄目だろうが、今の石脇佑香なら十分である。大型のテレビモニターはPCに繋いでディスプレイとしても使えるようにした。
「どうだ? これで話しやすくなっただろう」
リビングの壁に掛けられたテレビモニターに大写しになった石脇佑香に向かってクォ=ヨ=ムイが話し掛ける。
「ですね~、ありがとうございます~」
そう言って陽気に話す石脇佑香にも、人間だった頃の面影は全く無かった。彼女はもう完全に、『かつて石脇佑香と呼ばれた人間の成れの果ての怪物』でしかなかったのであった。
「あはははは」と屈託なく笑いながらも、その笑顔はどこか邪悪で狂気に満ちたものとなっていたのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
生きている壺
川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。
君の魂は砂糖のように甘すぎる ~"Your Soul,Too Sweet like Sugar"~
希依
ホラー
あなたのことを許さない。怪物に喰われ続ける私を見捨てたのだから。
あの頃、僕たちのすぐ隣で暗闇は生きていた。悪意を持てない少年メロスと暗闇に喰われ続ける少女かふかの懐かしくて哀しいジュブナイルホラー。
5月の連休初日。メロスが部屋で起きると母親は失踪していた。母の遺した一万円札を持ってモール型ショッピングセンターに行くと学校一の嫌われ者である永井かふかがクラスメイトにいじめられる場面に遭遇する。メロスはこっそりとかふかを助けるが、逆にかふかに逆恨みされ善意をつけこまれる。メロスにはかふかに決して逆らえない負い目があった…。
「メロスはかふかを見捨てた。かふかはメロスに殺されたの」
その夜、アパートのベランダで永井かふかが暗闇の怪物に生きたまま喰われるのをメロスは見る。それはまるで夕暮れの校舎で少女を見捨てたときと同じように―――。
ちょうど同じころ、モール型ショッピングセンターで幼児失踪事件が起きていた。かふかが言うにはその事件にはかふかを喰らっていたクラヤミの怪物、晦虫が絡んでいるという。
晦虫は人の悪意を喰らう。ショッピングセンターの奥に捕らわれた少女の絶望を美味そうに食べているが、もうじきその絶望の灯も消えるのだと。
少年は耳たぶを報酬に晦虫の毒である少女の助けを得ると、晦虫に捕らわれた女の子を助けに深夜のショッピングモールに潜入するのであった。そこで少年と少女が見たのは大人の悪意に寄生した晦虫の群れと巨大な晦虫の王、そして、■■の裏切り―――。
ヒトの悪意は怪物にとって蜜の味、じゃあ、ヒトの善意はどんな味?
※本作品はホラーです。性的描写、身体欠損など猟奇的描写はできるだけ抑えめにしていますが、人によっては不快と感じる描写が多数あります。ホラー、サイコサスペンスが苦手な方はご注意してお読みください。
転生する度に殺されるので次は私が貴方に死を届けます
雨水郡
ホラー
全ての『転生』が幸せな結末を辿るとは限らない。
何度も転生を繰り返すリビアンはその度に誘拐、監禁され、殺され続けている。……1人の魔族によって。逃げようが隠れようが目の前に現れる名前も知らない魔族にリビアンは覚悟を決める。……殺される前に殺す。この連鎖を断ち切る為、死を、転生を味方に生きていく。
性奴隷を拒否したらバーの社畜になった話
タタミ
ホラー
須原幸太は借金まみれ。
金貸しの元で無償労働をしていたが、ある日高額報酬の愛人契約を持ちかけられる。
『死ぬまで性奴隷をやる代わりに借金は即刻チャラになる』
飲み込むしかない契約だったが、須原は気づけば拒否していた。
「はい」と言わせるための拷問が始まり、ここで死ぬのかと思った矢先、須原に別の労働条件が提示される。
それは『バーで24時間働け』というもので……?
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
完全版・怪奇短編集
牧田紗矢乃
ホラー
寝ない子供の所へ現れるという「婆(ばば)」を見てしまった少年。霧の晩、山に捨ててしまった子供の声で語りかけてくるモノ。高校の入学祝いで買ってもらった携帯電話に掛かってくる間違い電話。
日常の中で怪異と出会ってしまった瞬間を描き出した短編集。
恐怖だけではない、どこか奇妙な世界をご堪能あれ。
前身となる「怪奇短編集 ―Mysterious Worlds―」の全100話を日常ノ怪①・②、動植物ノ怪、人ノ怪、学校・職場ノ怪の全5章への分類・整理。一部の短編は新規のものと差し替えております。
さらに書き下ろしの「秘密ノ怪」は全5話を掲載予定です。
毎週水曜日と土曜日の深夜0時頃に更新します。
裏話満載のオフィシャルファンブックはこちら→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/180133519/740582236
他の小説投稿サイトでも同時連載中。
【一人称ボク視点のホラーストーリー全64話】ボクの小説日記
テキトーセイバー
ホラー
これはボクが(一人称ボク視点)主人公の物語である。
ボクが考えたホラーが展開される1話完結オムニバス方式のショートストーリーです。意味怖メインですが不条理、ダジャレ、タイトル意味合いなどあります。R15対象なのは保険です。ちなみに前回の削除したモノを含む移植も含まれています。
41話完結予定でしたが連載続けることにしました。
全64話完結しました。
出雲の駄菓子屋日誌
にぎた
ホラー
舞台は観光地としてと有名な熱海。
主人公の菅野真太郎がいる「出雲の駄菓子屋」は、お菓子の他にも、古く珍しい骨董品も取り扱っていた。
中には、いわくつきの物まで。
年に一度、夏に行われる供養式。「今年の供養式は穏便にいかない気がする」という言葉の通り、数奇な運命の糸を辿った乱入者たちによって、会場は大混乱へ陥り、そして謎の白い光に飲み込まれてしまう。
目を開けると、そこは熱海の街にそっくりな異界――まさに「死の世界」であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる