JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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夏休みの章

この恨み、晴らさでおくべきか

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「この恨み、晴らさでおくべきか~!」

石脇佑香いしわきゆうかは怒っていた。ナイター中継の延長によりアニメの録画を失敗したことに怒っていた。無駄に力を持った者は、自身の欲望が簡単に実現してしまうことに虚しさを感じ無気力になるか、でなければ逆に、些細なことで憤慨し道を誤る。残念ながら石脇佑香は後者だった。

石脇佑香はまず、どうすればナイター中継がなくなるか考えた。

「そうだ! 野球チームがなくなっちゃえばいいじゃん!」

そう考えると今度はどうやって野球チームを無くすかというのが問題になってくるが、石脇佑香は野球チームの成り立ちを知らなかった。調べれば一瞬で情報は入ってくるのだが、本人に野球に対しての興味がまるでないから、手に入れた情報をどう理解すればいいのかがさっぱりだった。

「まあいいや。野球選手がいなくなれば野球チームもなくなるよね」

そう思って野球選手の殺害を思い付く。人間としての感性を失った彼女にとってはもう、死は<状態の一つ>でしかなかったのである。

彼女自身は直接人間に触れたりはできないが、例えばその選手が乗る自動車の電子制御を破壊し事故を起こさせるとか、通りがかった電気設備に過大電流を流しその巻き添えにして殺害するとか、方法はいろいろあった。だが、そこでふと彼女は考えた。

「あ~でも、野球選手本人は自己責任でも、家族とかはちょっと可哀想かなあ…」

何が『自己責任』なのか意味不明だが、この時点ではまだ、『野球選手の家族が可哀想』という発想は一応あったようだ。

そこで彼女は次に、球場を使えなくすればいいと考え、電気を操る能力を発揮、いくつかの球場の電気設備に過大電流を流し完全に破壊した。これなら少なくとも、照明等が不可欠の夜間の試合はできなくなる。

「うっしっし。我ながらいいアイデアじゃん♡」

と彼女はほくそ笑んだ。しかしそれにより火災が発生し、消防が出動。火災自体はそれほど大きなものにならなかったが、日本各地で同時多発的に野球場ばかり、しかも皆、電気設備に過大電流が流れたことが原因の火災ということで、人為的なテロのようなものではという憶測が、後々まで世間を賑わせることになった。

だが、ある球場を同じように破壊しようとした時、石脇佑香はそこであるアイドルグループがライブを行う予定になっていたことに気付き、

「ダメじゃん! ライブできなくなっちゃうじゃん!」

と急遽、破壊を中止した。アニメが一番好きだが、アイドルにもそこそこ興味はあったのである。

いくつかの野球場を破壊した為に一部の試合が中止に追い込まれたが、それも別の球場に振り分けるなどの対策が取られ、野球そのものを無くすまではやはり至らなかったのだった。

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