JC邪神の超常的な日常

京衛武百十

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夏休みの章

化生を狩る者

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木刀を携えた男は、もはや人間とは思えない表情になった<少年A>に向かってするすると歩き、<少年A>はそんな男に向かって牙を剥き出した。

「があっ! がぁああぁぁああぁーっっ!!」

獣のような咆哮を上げ、<少年A>が空中高く舞い上がる。そして落下の勢いを活かして、男に一撃を加えようとしたようだ。

が、二トン近い自動車が時速百キロを超えるスピードで迫っても平然としていたその男がそんなものを恐れる筈もない。その程度のことも思い至らんほどに、<少年A>は既に人間性を失っていた。

すると男は、<少年A>に向かって木刀の切っ先を伸ばし、体に触れた瞬間、するりと自分の体を捻って木刀を斜め下へと振り下ろした。

その動きに導かれるように、<少年A>の体が道路へと叩きつけられる。

「がひっっ!?」

けつまずいてすっ転んだ豚のような悲鳴を上げる<少年A>の姿に、辛うじて破損を免れて割れたフロントウインドウ越しにその様子を捉えていたカメラの映像を見ていた石脇佑香《いしわきゆうか》が、

「ぷふっ」

と失笑する。

人間の感覚で見れば笑い事ではないのだが、こいつはもう人間ではないからな。上下反転した映像であっても、こいつは既に関係なく認識できるほどに人間の感覚を失っているし。

まあそれはいいとして、この男、どう始末をつけるつもりなのかな。

はっきり言えば、<少年A>の力の覚醒が促されたのは、こいつが余計な真似をしたからだ。もっとも、例えば警官が制止する為に拳銃でも発砲すれば同じことが起こった可能性はあるから遅かれ早かれだったかもしれん。

にしても、直接の原因になったことは間違いない。

私はそれも含めてこの結末がどうなるのかということに少しばかり興味が湧いてきていた。

ただ、これを見た印象として、こいつは<正義>などの為に動いている訳ではないのだと私には感じられた。正義を成そうという意欲も熱も、こいつからはまるで伝わってこない。これではまるで、ただ<ぎょう>を淡々とこなそうとしている修行僧のようだ。

『ふん、なるほどな。自分の力を突き詰める為に、やってるだけか』

と、見做す。

たまにいるのだ。異能の力に目覚めたはいいが、人間相手では本気を出せないというので、あくまで自分の腕を磨きたいが為に化生を狩ったりしてる奴が。

言うなればただの自己満足である。<正義>を口にする奴もいたりはするものの、それも大抵は詭弁として掲げているだけだった。正義を建前にして、人間に仇《あだ》なす化生を相手にすれば責められることもないという算段の上でやってるという訳だ。

利口と言えば利口である。

こいつもそのクチか。

それに<私の一人>が利用されたというのは業腹だが、こいつがどの程度のことをできるのかを見てやってもいいかもしれんな。

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