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洗脳

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「どうしてこんなことするの…!?」

時間が経って少し落ち着いたサーシャが目に涙を溜めて、しかし同時に強く睨み付けて自分の正面にいたメイトギアに向かってそう問い掛けた。

「先ほども申し上げましたが、あなたは今、メルシュ博士の洗脳を受けて正常な判断ができなくなっています。私達はそんなあなたを救いに来たんです」

「洗…脳……?」

サーシャにとってはまったく身に覚えのない話だった。確かにメルシュ博士は自分を保護してくれてコゼット2CVドゥセボーを治してくれて、さらには自分の為に町まで作ってくれた恩人である。けれども、いつも忙しい博士とは実際には顔を合わせたことは数えるほどしかなく、まともに会話もしたことがない。隣人のフィリスさんも、ゴードンやゴードンの両親も、すごく優しい穏やかな人で、そんなことをされた覚えもなかった。

「私、洗脳なんか……」

『洗脳なんかされてない』と言いかけた彼女を、メイトギアは遮った。

「洗脳されている人は、自分が洗脳されているとは気付きません。それこそが洗脳の怖さなんです」

「……」

その言葉に、サーシャは、このメイトギアには何を言っても無駄だということを感じていた。自分の考えばかりで相手の言葉に耳を傾けようとしていない。ここはもう、大人しくして様子を窺った方がいいかも知れないとさえ思った。そんな彼女にメイトギアは言う。

「サーシャ、あなたに会わせたい人がいます。私と一緒に来てくださいますか?」

『会わせたい人……?』

この時、サーシャは<人>と言われてもそれはてっきりメイトギアのことだと思っていた。しかし、彼女にとって縁のあるメイトギアは全てあの町にいる。それ以外で思い当たる者はなかった。

研究所とイニティウムタウンの官邸を別働隊が制圧した後、サーシャを乗せたワンボックスカーはいつの間にか止まっていた。そこは、かつてレストランだったと思しき店舗の駐車場だった。その後ろに、トラックが止まる。ワンボックスカーを追ってイニティウムタウンから出てきたトラックだった。

そのトラックから降りてきたメイトギアに、サーシャは見覚えがあった。以前、町で何度か見かけたメイトギアだ。確か……

「タリア…えっと…?」

そう、それはタリアP55SIだった。

「久しぶりですね。サーシャ」

タリアP55SIは穏やかにそう話しかけた。だが、サーシャは厳しい表情で睨み返し、言った。

「私に会わせたい人って、この人?」

その言葉には、明らかな拒絶と反発が込められているのが分かった。そんな彼女にタリアP55SIは静かに首を横に振る。

「いえ、私ではありません。あなたに会わせたいのは、彼です」

と言いながら、タリアP55SIはサーシャの背後に視線を向けた。それにつられて振り向いた彼女の視線の先には、一人の少年が立っていたのだった。
 
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